レーザ加工機で作ったもの その4 ステンレスへのレーザマーキング

レーザ加工機活用

一つ前の投稿で触れましたように、この投稿ではステンレスへのマーキング、特に二硫化モリブデンを使ったマーキングについて詳しく紹介したいと思います。
まずはどんなものができるかというところから。 このようなステンレスの板を準備します。幅10mm、長さ50mmくらいかな。小さなキーホルダといったサイズです。ホームセンターに売っているステンレスバーから切り出したものです。

これに二硫化モリブデンを含む潤滑剤をスプレーします。 真っ黒。

ホットプレート上で溶剤をしっかり飛ばします。

乾燥した状態。表面は凸凹していますが、仕上がりにはあまり影響ないようです。

アクリル板にマスキングテープで仮止めして、


レーザ加工機にセットします。
描画はいつもの通りですので割愛して
こんな感じのものができます。黒くなっている文字がレーザが当たったところです。
レーザが当たっていないところは先ほどのホットプレート上で乾燥させただけの状態ですので、水洗いで簡単に流れ去ります。残ったものがこちら。
いい感じだと思いません? 文字の部分は二硫化モリブデンがステンレス上に固着してほんの少し盛り上がっています。表面はがさがさと荒れた状態で、拡大すると小さな点状に固着した二硫化モリブデンが観察できます。

このマーキングのために使ったものががこれです。
いずれもモノタロウで買ったもので、二硫化モリブデンを含むスプレーです。
二硫化モリブデン自体は潤滑作用がある物質として古くから使われており、別に珍しいものではありません。スプレーも様々なものが販売されています。
その中からステンレスへのレーザマーキングに適しているのはいわゆるドライタイプです。
多くの二硫化モリブデン潤滑剤スプレーは二硫化モリブデンがオイルに混合されています。ここで使うのはそのタイプではなく、溶剤と二硫化モリブデンだけが配合されたもので、溶剤が飛んだあとは粉体状の二硫化モリブデンがこびりついたように付着して粉のまま潤滑作用をもたらすタイプです。ドライタイプにも二硫化モリブデンだけが配合されたものと、二硫化モリブデンとグラファイトカーボン(これも個体で潤滑作用があることで有名ですね)が混合されたものがあります。
下の写真では右が二硫化モリブデンだけ、左がグラファイト混合タイプです。いずれを使ってもステンレスへのマーキングが可能です。

ステンレスへのレーザマーキング材と言えば Thermark です。
はい。びっくりするほど高いです。リンク先のスプレー一本19,800円です。趣味で買うにはじつにじつに抵抗がある金額です。
確かにThemarkは美しくくっきりと黒いマーキングをすることが可能です。おそらく二硫化モリブデン以外にもいくつかの金属化合物が配合されているのでしょう。
一方、上のスプレーのお値段はこちら。
より二硫化モリブデン含量が多いモリドライ1100で2155円、カーボンが入ったモノタロウのやつは量が多くて1200円と激安です。

ちなみにこちらはアフィリンクのテスト(笑

いずれの商品にしてもこの値段なら多少の色の差は十分妥協できると思います。
どうしてもという方は、ここ一発の時だけThermarkを使えば良いのです。
ちなみに、Thermarkを始めとする複数のレーザマーキング剤とモリブデン潤滑剤スプレーの比較はYoutubeにあります。

ではここからはほかに行ったいくつかのマーキングの例を紹介いたします。
まずは100均に売っているステンレストレイ。

マスキングテープでおおよそのエリアを仕切っておいてからスプレーを吹いて、写真のように四角い描画エリアを作ります。別に仕切らなくてもいいですが、その辺はこだわりで。
そしてラスター描画でモデルのV4xミクさんを描いていきます。

ちなみにこの実験では描画条件を調べるために少々早めに描画しています。F2000位だったかな。ラスター描画としては遅遅ですが、焼き付けのイメージがあるのであまり早くしない方がいいかなと思った次第です。

描画中はレーザが当たった跡ははっきり見えるものの、きちんと二硫化モリブデンによるマーキングができているかどうかはわかりません。

描画終了。
アルコールを含ませたティッシュで拭き取ってみますが、結構しっかりとこびりついていてどうにもなりません。ということで、ざぶざぶ水洗いします。二硫化モリブデンの粉が指にたくさんつくので、手袋した方がいいかもですね。

結果がこちら。きれいに描画できているようにも見えますが、それは頑張って写真を撮ったからでして、実はあんまりしっかりと絵ができていません。

ステンレス自体もレーザ描画によって変色しますが、ここで見えている絵はどちらかというとその変色だと思われます。

ということで、別のプレートを使い、描画速度をもう少し落としてやってみました。F1000位。
すると今度はしっかりとマーキングされます。微妙な色の違いが判るかな。こちらの方が黒いです。しかも真上から見てもしっかりわかります。ステンレスの変色は真上から見るとよくわからず、光を反射させるなどするとようやく見える感じなのですが、こちらは角度に関係なくしっかり見えます。これがやりたかったマーキングです。

その後の検討も総合しますと、結論として「強いほど、ゆっくりなほど」いいように思えます。Thermark のWEB情報を見ても、定着が難しい真鍮や金銀の類については描画速度をかなり落とすように指示が出されています。ということで、この結論は正しいと思われます。
ということで、強くゆっくり条件で改めて鋏に描画してみました。

はっきり描画できています。掴んだ感じがします。

ということで、ここまでは基材がステンレスでしたが、この感じならほかのものでも行けるんじゃね、と思ってタイルに描画してみました。これが一つ前の投稿のミクさんです。

他の種類の金属への描画はある程度情報がありますのでそちらにお任せして、ここではセラミックスに挑戦であります。

描いてるとこ。閃光がものすごいです。可視域の遮光メガネ必須。

タイルの場合はこんなにはっきりと色が変わります。でも白タイルに描画するのにレーザ照射面が白くなるのはどうなんでしょうかね。やや不安がありつつ。

描画を終えて、

描画自体ははっきりくっきりですね。

で、水洗いしてみますとこんな感じでした。

期待はもっと真っ黒な描画だったんですが、グレイという結果になりました。
ですが、この変色部分はタイルの釉薬が溶けた状態になっており、非常に強力に焼き付いて石碑に刻んだレベルに近いと思われます。いわゆる written in stone というやつです。
私がこの世からいなくなってもミクさんは永遠に微笑み続けるでしょう。

さて、このまま終わってもいいのですが、もう一歩踏み込んでみます。次のステップとしてマーキング材の自作、より黒いマーカーへの改善を試みます。
前述の通り、二硫化モリブデン潤滑剤スプレーはThermarkに比べて圧倒的に安いのですが、それでも1000円はします(笑
「要は二硫化モリブデンが張り付いてればいいんやろ」という考え方が正しいとすれば別にスプレーである必要はないはずです。ということで、粉を買ってみました。
こちら。Aliexpressに山ほど販売されています。

AliExpress.com Product – WS2 MoS2 Sulfide Nano Powder Lubricant High Purity Tungsten Molybdenum Black Grease Ultrafine 20nm

で届いたものがこれ。100gで千円少しと激安です。
モリドライスプレーが缶、溶剤等々コミコミで230gくらい。缶を除いた実質の中身は150gくらいと思われます。SDSが開示されているモノタロウのもので二硫化モリブデンの含量は5-10%となっていますので、

仮にモリドライスプレーの二硫化モリブデン含量が20%あったとしても二硫化モリブデンの含量は30gくらいと推測されます。モリドライスプレーは2000円以上しますから、おそらくこの時点でコストは1/8程度になっていると思われます。

開けました。白くないのでまだましですが、十分に怪しい粉であります。

瓶に移しておきます。

で、これをどうやってステンレスなりなんなりの板の表面に塗るかですが、みら太な日々では粉物を塗りたいときはよく糊を使います。

市販のでんぷん糊に二硫化モリブデンの粉を入れて、

しっかり混ぜ合わせます。

これをステンレスの板に塗って、

しばらく乾燥させれば出来上がり。

ステンレスの板に塗ったものに描画してみました。

結果。現段階ではまだいまいちです。ちなみに写真は表札を作ろうとしたものです。描画できているように見えますが、焼き付いている二硫化モリブデンの量は多くは無く、ほとんどはステンレスの熱による変色です。おそらくですがこの実験では糊に対する二硫化モリブデンの量がまだ不足していたと思われます。もっと二硫化モリブデンの配合比を上げてやる必要があります。

ちなみにスプレーを使ったものはこんな感じ。全然違いますよね。

ということで、マーキング材の自作はまだ改善が必要ですが、フル自作するということは二硫化モリブデン以外にいろいろな添加剤を混ぜ込めるという自由度があります。
真っ黒なマーキングをするためには、単純には酸化したら黒くなる物質を入れてやることであると思っております。これは例えば銅なんかが相当します。ちょうど(笑)別の実験で銅を溶かしているので、硫酸銅か何かの形で塩にして混ぜ込むことを考えております。
レーザを使ったマーキングのことを調べるために海外のサイトを見ているとよく石膏という言葉に出会うのですが、これはどうなんでしょうね。実験すればすぐわかることですが、カルシウムの酸化物は結晶形によらず白いはずです。このあたりもトライしてみたいと思います。

マーキング材の自作はもうしばらく検討を続け、良い結果が得られたらまた投稿を作りたいと思います。

コメント

  1. さるっち より:

    洗い落としたモリブデンがなんかもったいないですね、、、

    • miratanahibi より:

      そうです。安いスプレー使っているといっても、大部分捨てちゃいますからね。
      回収してまた塗るわけにもいかず(笑

  2. sbin より:

    ニ硫化タングステンが混ざって無い方が良いのでしょうか?

    濃い紺色とかにしてみたいです。

    • miratanahibi より:

      二硫化タングステンはモリブデンの勘違いですか。
      であれば二硫化モリブデンはマーキングの主成分ですので必須物質と考えています。
      この投稿で取り上げた二種類の潤滑スプレーの一方にはグラファイトカーボンが結構な量混ざってるんですが、これの有無はあんまり関係ないみたいです。
      最初は「カーボンない方がいいやろ」と思って高いスプレー買ったんですが、あとで安いやつ買って試してみてもほとんど結果は同じでした。
      ちなみに、上の実験ではモノタロウの安い方を使っているものが多いです。

  3. あるじ より:

    初めまして!
    最近レーザー加工機を手に入れて、色々と試しております。
    二硫化モリブデンを使用しての金属へのマーキング、とても興味深く読ませていただきました。
    早速モノタロウで注文しました。
    また引き続き情報を参考にさせていただきたいと思います。
    よろしくお願いします。