レーザ加工機で作ったもの その6-2 LPA法(勝手に命名)のアイデア

レーザ加工機活用

この投稿ではアルマイトとはで前触れたLPA法のアイデアの詳細を説明したいと思います。
LPA法というのは、私が勝手につけた名前で、
Laser Patterned Anodization, または Laser Patterned Alumite
の頭文字をとったものです。「レーザでパターン形成されたアルマイト」という意味です。
私は自分の作ったものやアイデアに名前つけたりはほとんどしないんですが、このLPA法についてはネットを調べても同じようなことをやっている例を見つけることができず、名前もないようなので今後の説明の便宜上つけさせていただくものです。
LPA法を思いついたのはずいぶん前のことで、その当時は実行しないまま頭の中のおもちゃ箱に放り込んでいました。着想のきっかけは「アルマイトはパイプフィニッシュで溶かすことができる」という情報でした。
アルマイトは酸化アルミニウムですのでアルカリに溶解します。パイプフィニッシュはほぼ水酸化ナトリウム水溶液(+増粘剤)なのでアルマイトはパイプフィニッシュに溶けるのです。
これは今ではネットのあちこちに書いてありますが、ほぼすべての例で再アルマイトの前処理として行われているもので、ワークをドブ付けして全面のアルマイトをはぎ取るために使われています。
一方でLPA法ではワークの一部分のアルマイトしか剥離しません。そしてその剥離する部分をレーザによってパターン形成するのです。
では以下にLPA法の詳細を説明します。

LPA法ではあらかじめ全面をアルマイト処理されたアルミニウムを母材として使用します。例えばこんなアルミバーです。規模の大きなホームセンターなら必ず扱っているものですね。このようなフラットバー形状のほかにアングルとかチャネル材が売られています。

写真にはよく見かけるシルバーのほかに、ブラックとシャンパンゴールドっぽい色(ステンカラーというのが業界の呼称です)のフラットバーを挙げています。これらはいずれもアルマイト処理されています。アルマイト処理はJISで規格化されており、酸化膜の厚さによってAA6(6um)とかAA10とか呼称が決まっています。
このアルマイト処理されたフラットバーにLPA法を適用する際のプロセスを順に説明します。

まず、何も処理されていないアルミフラットバーの断面は下のようにアルミニウム地金の上に数ミクロンのアルマイト層があります。表面はすべてアルマイト皮膜に覆われています。(上面図)
以下左側が断面図、右側が上面図です。
LPA法ではここでアルマイトの表面にパターン状にレーザを照射します。ここではひらがなの「み」としましょう。「み」を塗りつぶすように30~40W程度のエネルギーのCO2レーザを照射します。
照射している時間や走査速度はワークの種類によって適切に調整する必要がありますが、レーザ照射によってワーク表面のアルマイトは変性されます。変性というのは定性的な説明ですが、私もここで起きている現象の詳細を把握できておりません。おそらくレーザ照射によって局所的に急加熱と冷却が行われることでアルマイト層にクラックが入る、熱膨張率の違いによってアルミニウム地金とアルマイト皮膜の界面に弱い剥離が生じる、といったことが起きているのではないかと想像しています。
レーザ照射後のアルマイト表面は若干の変色があるものの、アルマイトが剥げ落ちたりすることはありません。

次に、このレーザ照射処理されたワークをアルカリ性の水溶液中に浸漬します。パイプフィニッシュを使うところですね。もちろん水酸化ナトリウム水溶液のようなほかのアルカリでもOKです。
この時、※※ここがLPA法の最大のポイントです※※、レーザ照射を受けた部分のアルマイトは照射されなかった部分に比較してはるかに早く溶解していきます。これはレーザ照射によって(詳細は不明なものの)変性を受けたために起きる選択的な溶解です。
なので、適切なタイミングでアルカリから引き揚げ、水洗することでレーザ照射部分のみアルマイトが溶解除去されてアルミニウム地金が露出した状態のワークを得ることができます。市販のフラットバーとパイプフィニッシュの組み合わせだと浸漬時間は10~15分くらいといったところです。


次にワークに適切な電気接点を確保し、硫酸水溶液に浸漬して陽極酸化処理を行います。
ここにLPA法の次のポイントがあります。
アルカリ処理でアルマイト皮膜が溶解しなかった部分(=レーザ未照射部分)には絶縁体である酸化アルミニウムの皮膜をかぶったままですので陽極酸化が起きません。新たに酸化被膜が発生/成長するのは電気的に露出している部分、つまり地金が露出しているレーザ照射部分だけです。つまり、レーザを照射したところだけに新たなアルマイト層を形成できるのです。これがLPA法の名前の由来そのものの重要ポイントです。

あとはわかるな(笑  …というのも無責任なので最後まで説明します。
選択的に形成された陽極酸化膜(=アルマイト層)は全面陽極酸化処理で作られる膜と同じ多孔質酸化膜です。ので、これを染料中に浸漬すると非常にきれいに染色が行われます。
この時、レーザ未照射部分には新たな陽極酸化膜はできてませんし、元からあるアルマイト層は封孔済みですので新たに染料が侵入して色がつくということは一切ありません。
これにより、レーザ照射を行ったところのみを染色できます。
何度もしつこいですがこれこそがLaser Patterned Anodizationであります。
染色後は水洗して沸騰水でしばらく煮てやれば染料が吸着した微細孔は封孔されます。

次の投稿からは工程の写真を使って具体的にLPA法を説明していきます。

コメント

  1. Johnson より:

    パイプ”ユ”ニッシュ

    次回の投稿も楽しみにしております.

  2. kantoku より:

    凄い