本日9月4日はKEK 高エネルギー加速器研究機構 の一般公開の日でした。
前々から一度見てみたいと思っていた粒子加速器を生で見ることができる非常に少ないチャンスです。これは逃すわけにはいきません。こんな機会を得られるのも横浜基地ならではです。
Googleの衛星写真でKEKを見ますと、きれいにリングを見ることができます。
リングといってもまん丸ではなく、直線を曲線でなめらかにつないだような形をしています。東京ドームを上から見ているような感じですかね。
周長は3km。私が学生の頃はトリスタンと呼ばれる加速器が稼働していました。今はその後継機であるKEKB(ケックB)が動いています。電子陽電子加速器です。
日本にはこのほかにも大型加速器として関西のSpring8がありますが、Spring8が放射光を積極的に使うことを目的にしているのに比べると、KEKBはより素粒子物理寄りというか、そんな設備であるとの印象を持っています。
以下、私はもちろん素粒子物理の専門家でも何でもないただの好事家なので理解に間違い多々あると思います。ご興味ある方はご自身で信頼性のあるソースをご確認くださいませ。
KEKBの周長3kmはSPring8よりも大きく、日本最大の加速器です。もちろん世界に目を向けると、とんでもない加速器はたくさんあります。有名どころはシュタゲでもおなじみ(笑)CERNのLHCですね。周長30kmでしたか。山手線くらいのはず。フランスとスイスにまたがっているというややこしい施設です。
LHCはその名称通り陽子などの重たいハドロンを加速するための加速器なので自然にでかくなります。リングを大きくしてなるべく曲率下げた方が重たい粒子をぶん回す際に粒子を曲げるためのエネルギーが要りませんよね。一方でKEKBは粒子としては比較的軽い電子陽電子(レプトン)の加速器ということでこの程度の大きさでも十分な速度まで加速ができる設計になっています。
そういいつつも、電子を曲げるにもそれなりのエネルギーが必要です。また、光速に近づくにつれて相対論的に電子の質量は増加していきますので投入エネルギーの増大と放射光による損失が顕著になって行きます。
そんなわけで、今計画されている電子陽電子加速器であるILCは直線の設計になっています。放射光による損失が無いように直線の状態で思いっきり加速して真ん中でぶつけようというまことに力技な計画です。
現計画では総延長が20kmに及ぶ直線加速器になっています。実は数年前にこのILCが私のふるさと福岡にできるかもしれないという話がありました。それも私が住んでいる家のある山(背振山系)の中だったのです。これには随分と期待したものでしたが、結局この候補地は東北に決まりました。現状ではまだ候補地です。日本にできるかどうかも決定していません。
いつものことですが前置が長くなりました。
そんなこんなでみら太な日々は加速器が大好きであります。超高真空、高電圧、高周波、超電導、大エネルギー、地下、陽電子、放射光、などなどどれ一つとっても大きな興味を引く重要ワードが並んでおります。これは行かないわけにいきませんよね。
では見学記であります。写真が相当多いので【閲覧注意】をつけておきます(笑
秋葉からつくばエクスプレスで45分。すぐ着きます。
地上に出ればすでにこの旗が。なんともシステマチックに見学者を迎える体制が出来上がっております。素晴らしい。
つくばも随分と変わったなあと思いながらバスを待ちます。
バス乗り場には係りの方が何名かいらっしゃいます。慣れたものです。
バスきました。無料送迎バスです。
20分でKEK着。立ち入り禁止区域には入りません、といった誓約書に名前を書いて、
このステッカーを胸に貼ります。
資料を入れるバックまで準備されています。なんという。
構内の掲示板。さすが貼ってあるもののレベルが違いますな。
構内はいわゆるつくばの独法っぽいゆったりとしたつくり。
施設全体図がこちら。ざっと計画を立てます。
案内も地図もしっかりしているのですが、何せ広い構内です。2x3kmくらいあるはず。
まず一番目に向かったところは….
これ(笑 みんな大好きコッククロフトウォルトン回路を使った加速器です。
わくわくしながら施設に潜入。
当たり前ですが、日ごろは思いっきり事務所として使われている部屋の横を通って現場に向かいます。
廊下にはこんなものが積み上げられていたりしてそれはそれは興味深いのですが、いちいち立ち止まっていると日が暮れてしまうのです。
ここは急いで現場に向かいます。
近づいてきました。
こんなのや、
こんなのに目を奪われつつも、
本体がある地下に下りていくと。
笑….
笑いしか出ません。
なんかのテーマパークのアトラクションかよというとんでもない装置が鎮座ましましております。
人の大きさがわかりますよね。
そうです。これです。コッククロフトウォルトン回路。
でも、思ってたのと違う(笑
私が作ったコッククロフトウォルトン回路(笑
現物(笑
このサイズ感。
もう一度回路。
現物。
ちなみに壁は完全シールドされております。
ここでは接地という言葉の持つ意味の重さが全く違う次元で迫ってきます(笑
ここが一段目の入り口。
回路の通りの接続構成(笑
出力部分。
その足元。
800kVですか。でも電流は5mAぽっちです。重量8トンの電気回路(笑
いやしょっぱなから度肝を抜かれましたね。巨大科学。
ちなみに、この加速器はすでに現役を引退しているということ。正に科学遺産です。
地上に戻ってきました。
地上にはあいかわらず魅力的なものが散乱しております。大学の研究室を思い出します。
これは散らかっていると言ってはいけない状態です。研究者には一番合理的な配置になっている(はず)です。
施設にはほかにもたくさん魅力的な展示があったのですが、
これらをいちいち見ていてはとても一日では終わらないことにすぐに気がつきました。
ということで、後ろ髪引かれながら、
次へと向かいます。
施設内の移動もバスです。歩いて回れないこともないと思われますが、相当な距離を覚悟しないといけません。
バスには赤コース(時計回り)と青コース(反時計回り)があります。
私は赤の時計回りコースを選びました。粒子と同じ方向に回るのです(笑
入口で渡されたパンフレット。詳しくイベントの内容が書かれています。
自分たちの活動をできるだけわかりやすく国民に伝えようという熱意が素晴らしいです。
一方でそうして理解をしてもらわないと税金投入が続かないという側面もあるのかも、などと邪推を交えた感想を持ちつつ、
次に行くところを決めます。
やはり粒子は、生成して、加速して、ぶつけて、測定ですので、その順番で回ることにします。
ということで電子陽電子入射機施設に向かいます。
長さ600mの直線加速器(笑
制御室。
の横を通って地下に下ります。
笑いしか出ません。
写真では見たことがありますが、そのまんまです。
向こうなんか見えるわけもありません。600mです。
加速器の断面や、加速の原理なども詳しい模型を使って説明していただくことができます。
いやはや….巨大科学。
マイクロ波を使って電界を形成し、それを使って加速を行います。
ので、加速器には一定間隔でこの導波管がつながっています。この上、地上部分に高周波発生器があります。
こちらが地上部分。もちろん600mあります。
ケーブルの総延長ってどのくらいあるんでしょうね。太平洋を横断しそうな勢いの量です。
高周波発生部。超巨大電子レンジが60台並んでいる感じですかね。
これが一斉に同期して動作するという恐ろしい装置というか施設です。
600m(笑
自転車がたくさん置いてありました。
いちいち部品がでかいです。
このコンデンサとか風呂位の大きさです。
「この600mの一番奥にはランドルト環が貼ってあるんですけどわかりますか(笑」
といわれたので、
持ってたカメラの光学18倍ズームにデジタルズーム5倍の90倍ズームを駆使して、手振れぶれぶれで撮った写真がこちら。確かにありました。裸眼で見えるわけないやん。
いや面白かったです。
お次、ちょっと寄り道してフォトンファクトリー。
ここは放射光を生成するための小さめのリングがあります。
もちろんこれではありません(笑
これが現物(笑
真空装置の塊にもだんだん慣れてきました、というか食傷気味になってきたというか。
大学の時に同期がここで研究をしていたことがあります。その時に使っていたのがXAFSのお友達のEXAFSでした。拡張X線吸収端微細構造でしたっけ、私にはさっぱりでしたが。
放射光はリングの接線方向に放出されますので、必然的に実験装置はリングの周りに集まってきます。
なんとなくリングの大きさが推測できる構造です。
お次、メインイベントその1。加速器本体です。
地下11mに設置されています。
こちらは地下に資材を下すためのホイスト。
下から見たとこ。
いやはや、もう麻痺してきました(笑
いやいや
右側が電子、左側が陽電子を蓄積&加速するチューブです。
加速器は一言でいえばコイルとポンプの塊ですね。
世界の日立製。ロケットは三菱、衛星はNECという印象ですが、加速器は日立なんですね。電車っぽいちゃぽいですが。
警報機の類もいちいちかっこいいです。
曲率がなんとなくわかりますかね。
土台もしっかりしています。何umくらいの位置精度が必要になるのかわかりませんが、きっとこの下には相当な基礎が作り込まれているのでしょう。
これがチューブ。変な形をしています。左右の切れ込みは放射光による熱を逃すための冷却部分としても機能すると説明を受けました。フォトンファクトリーでは活用されていた放射光も加速器の場合には邪魔な存在です。
ターボ分子ポンプが粗排気扱いされていることに驚愕を禁じ得ません。どんだけ真空度が高いんでしょうか。まあ3kmの間に電子がほかの粒子とぶつかったら台無しですからね。
これがメインポンプとのこと。いやすごいです。これが一体何台ついでいるんでしょうか。
ここはリングの中の直線部分。
コイルだらけ。これを一体何人で運用しているのかわかりませんが、全部を把握したうえで調整、制御していくことを考えると気が遠くなります。しかも運転中は人は近づけませんから完全遠隔制御です。LHCを作っていた当時、ファーストライトでビームが回った時に研究者が大喜びして祝杯をあげている動画を見たことがありますがこれを見ると喜ぶのも理解できるように思えます。
ここは入射ビームが大リングに合流する部分。地下鉄の引き込み線を見ている感覚です。
以上、KEKB本体でした。
地上に戻るとなにやら見慣れた光景があったりもします。なんだかほっとします。
さて、お次、メインイベントその2。検出器に向かいます。生成、加速、検出の最後の部分です。
週末は空模様が悪くなるという予報だったのですが、なんのなんの。この通りの青空です。そのせいで暑いです。
さて、再びバスにのってやってきました筑波実験棟。
加速した粒子を衝突させてその時に生じる二次粒子の飛跡を検出する検出器です。
検出器と言ってもこの大きさ(笑
右上に小さく写っている人が見えますかね。この空間だけでもものすごいです。中にマンションの一棟くらいは軽々立てられるほどの広さです。
この中央部分に加速器のチューブが通ります。
現在は整備改造中のためチューブの横にずらしておいてあります。
このへんが多分検出器の塊。
で、上に載っている制御系。
「ロケにも使われました」と。柴咲コウが来たとのこと。探偵ガリレオかな。まことに結構なことです。
横から見たとこ。手前の旋盤の芯押し棒みたいなのが加速器チューブの位置です。
このトンネルの中を3kmが通っています。
ここのケーブルも半端ではないです。ちゃんと接続がわかってるのかどうか不安になります。誰かが発狂してケーブルずたずたに切ったりしたら施設が閉鎖されそうな気がします。
いやあ桁が違いますねえ。
検出器をリングの横にどけていると書きましたが、これで動かしたのでしょう。
ものすごいフックがついています。これだけで何トンかありそう。
70t(笑
高度感をわかっていただけますでしょうか。
ということで、超巨大検出器でした。
今日一日驚きの連続でした。
一度は見てみたいと思っていた加速器でしたが、まさに期待以上、たいへん素晴らしい経験でした。ほんとはもっともっと個々の施設を舐めるように見て回りたいところですが、一日ではとても出来そうにありません。
思わぬグッズももらえたし、
ゆっくり読むこともできなかったパンフレット類も勉強させていただきたいと思います。
皆様も機会がありましたら是非一度見てみてください。
日頃から税金の高さにぶーぶー言っている私ではありますが、こんなエキサイティングな巨大科学に投下するのなら喜んで払います。それくらい素晴らしい施設です。
ということで、来年もチャンスがあればぜひ参加したいと思った大イベントでした。
コメント