光共振器準備 理論編

 
スパッタリングによる表面鏡作製の条件検討も徐々に進んでいることもあり、ぼちぼち作ったミラーを保持するための準備をします。まずは理論編(笑

CO2レーザの光共振器は扱う光が10umと長いためいろいろと特徴的な部分もありますが、単純にはHe-Neレーザなんかの共振器と同じです。つまり、一方が完全反射、他方がハーフミラーです。

ここで少し面倒な話をまとめておきたく。それはミラーの曲率と反射率です。
まずは完全反射面から。

完全反射面は単に反射すればよいだけなので反射率は100%を目指して作ります。なかなか難しいですががんばらねばなりません。光共振器内では光が何度も鏡の間を往復します。たとえば光が外に出るまでに平均100回反射したとすると、反射率が99%のミラーを使うと0.99^100倍に減衰することになります。0.99^100~0.37なので、99%のミラーを使っても1/3程度までエネルギーが落ちてしまうことになります。反射率は大事です。

また、完全反射面については曲率の問題もあります。それは、レーザ管の直径と長さに対してシングルモードを発振させるためのミラーの曲率が定まるということです。

ニコニコのコメントでも突っ込まれているように、完全反射面は銅などの金属板を磨いて鏡面にすればよいと思われがちですが、この曲面というのが難しいのです。
やや詳細に。
Sam’s laser FAQ の この記載によりますと、ビームスポットのサイズ(ピークエネルギーの1/eとなる点の集合)がレーザ管の管径に対して十分に小さいとき、
At the OC, the spot size is:

                             lambda * Lr * sqrt((RoC-L)/L)
                  w1 = sqrt(-------------------------------)
                                           pi

and at the HR it is:

                             lambda * Lr * sqrt((RoC-L)/L)
                  w2 = sqrt(-------------------------------)
                                   pi * (1 - L/RoC)

Where:

  • lambda = wavelength (10.6 microns for the CO2 laser).
  • Lr = Length of the resonator (distance between the OC and HR, NOT just the active medium).
  • RoC = radius of curvature of the HR.
なる記載があります。OCは取り出し口(Optical coupling)側ミラー、HR(High Reflectance)は完全反射面、W1、W2はそれぞれOC側とHR側のビームスポットサイズです。このビームスポットサイズがほぼ同じになる(実際はHR側が若干大きいとよいらしい)RoCは共振器長Lに対してある値に定まります。
これをまとめたSteve Hardy氏の場合、レーザ管長が1.2m、管径が15mm(これをビームサイズに対して十分に大きいと考える)であり、このとき完全反射ミラーの曲率は10mになります。
10mの曲率なんてほとんど平面みたいなもんだと思いますが、シングルモードにこだわる場合はここも気をつけなければならないということです。
私の場合に置き換えますと、レーザ管はより短く、より細くしようと思っておりますので、完全反射ミラーの曲率はより大きくなる方向です。また管径が小さいので上記の計算の前提となっている「管径がビームサイズに対して十分に大きい」という条件も満たさない方向になります。まあ、無理やり計算しても曲率は数mというところかと、結局ほとんど平面じゃんという気もしますが。
ということで、いろいろ書きましたが、結論は「やって見ないとわからない」(笑
まずは平面でやりましょう。シングルモードにそれほどのこだわりはありませんし、それなりの精度で加工ができればモードなんてどうでもよいです。マルチモードのほうがトータルのパワーがありますのでむしろそちらに魅力を感じます。
次に光取り出し面。
ここが皆さんの工夫が集中するところです。
ハーフミラーによる共振器の構成と出力光の透過という二つを満たさなければなりません。
ベストな選択は、10umをよく通すZnSeかGeの板に銅をスパッタしてハーフミラーにすることです。
しかしこれにはいろいろと問題が。
  • ZnSeはSeの毒性が気になる
    入手性は実はそれほど問題ではありません。Aliexpressをのぞけば中華製の物が所望の反射率のハーフミラーに加工した状態で手に入ります。価格も数千円と手が出ない金額ではありません。
    毒性さえなければ…..
  • Geの板にはハーフミラーを形成せねばならない
    Geの板も実は数千円で手に入ります。見つけたのは
    http://www.ecomer.biz/shop/items/index_ge.php
    スパッタの条件出しが完璧で、一発で所望のハーフミラーを作ることができるのであればよい選択です。が、現時点では1枚でうまくいくとは思えません。結局数万円の出費となりそうな気がします。
ということで、すでに安くておいしい方法が考えられています。
それは完全反射ミラーに穴を開けて光を取り出すというものです。これはハーフミラーを作らずに取り出し面を作る方法ともいえます。
たとえば50%の反射ミラーが必要な場合、完全反射ミラーにビームの50%分のエネルギーが透過するサイズの穴を開けます。こうすればビームのエネルギーのうち半分は完全に反射されて光共振器内に留まり、半分は外に出て行きます。
なかなか賢い。

問題は穴の蓋です。減圧のためには蓋が必要で、その蓋は10umを通す必要があります。
しかし、この穴は通常数mm径と小さいので、いろいろな方法で解決ができます。たとえば、
  1. 上で書いたGe板を無加工で貼り付ける
    ハーフミラーを作るリスクはありませんので失敗もありません。
  2. ZnSe板を貼り付ける
    毒性の問題はそのままです。
  3. 食塩(NaCl)の結晶を貼り付ける
    食塩の結晶は10umをよく通します。大きな結晶は難しいですが、数mmのものであれば岩塩の袋を漁ったり、自分で作ったりして入手することは可能です。
  4. シリコンの板を貼り付ける
    シリコンの板は太陽電池(単結晶タイプを選ぶ必要があります)として比較的簡単に安く手に入れることができます。シリコンはゲルマニウムに比較すると劣りますが、それでも10umの波長に対して6割程度の透過率を持っています。
  5. Geやシリコンの板の一部に完全反射ミラーを形成する
    CO2レーザが始めて作られたときに選択されたのはこの方法でした。このときはシリコンが使われたようです。完全反射ミラーに穴を開ける代わりに、ミラーを形成するときに窓の部分をマスクしておくというものです。完全反射ミラーの形成はハーフミラーの形成に比べてリスクは小さいので、選択のひとつではあります。

上に書いたもののうち、もっとも身近なものは食塩の結晶です。食塩の結晶の大きなものを作ってハーフミラー加工をして光取り出し面にすることも話としては可能ですが、割れやすい大きな結晶を手に入れる、それにハーフミラー加工をする、というのはなかなか現実的では無いように思われます。さらに、せっかく作っても潮解してしまうという大きな問題があります。よほどのことが無い限りやりたくない方法です。

ということで、せっかくスパッタリング条件を検討しているところではありますが、ハーフミラーを作らない方向がなんだか魅力です。まあ、完全反射面は作る必要がありますので無駄ではありませんが。
一応、以下に光取り出し面の反射率の式を引用しておきます。
これもSam’s laser FAQ の Steve Hardy氏のまとめから
The optimum value for the OC reflectance is given by:

                                       Ld
                            R = 1 - ---------
                                     500 * D

Where:

  • R = OC reflectance (as a fraction between 0 for non-reflective to 1 for totally reflective) mirror.
  • Ld = Length of the discharge (active medium, NOT the distance between mirrors).
  • D = Diameter of the bore.
割と簡単な式です。
この式の面白いところは、右辺の第二項が1より大きくなる条件があるということです。
これに意味するところは、プラズマ長(こんどは共振器長ではありません)がプラズマ径(管径ともいえます)の500倍以上あれば光取り出しミラーは要らないということです。
あらら、ついにミラーが要らなくなりました。まあ、管径4mmでプラズマ長2mですからあんまり現実的な解ではありませんが、アスペクト比が大きくなるとあんまりミラーにこだわらなくてもよくなるというのは間違いないと思いますので、作るという点ではうれしい話です。
なんとも利得の高いCO2レーザならではの話ですが、これは利得という点から見た式であることは忘れないようにしないといけないと思います。モードの点からはちゃんと光共振器を作ってやったほうがビームの行儀はよいのだと思います。多分。R<=0というのはlaserではなくASEなんじゃないでしょうか。
これらのことを頭の隅に置きながら共振器を作っていきたいと思います。

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