ガス冷却ペルチェ方式霧箱 その44 β線を確認

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冷却ステージ部分が最終形態になったところで動作確認を行いました。
狙い通り過冷却部分の厚さは増したように見えます。そのせいかどうか不明なのですが、今まであまりはっきり見えなかったβ線の飛跡がかなり見えるようになりました。
これは素晴らしいです。

とりあえず動画を二本どうぞ。ついったにも上げた動画ですが、Youtubeの方が画質がいいです。見にくければリンク先をYoutubeアプリで開くとよいです。
α線のミサイルのようなぶっとい飛跡の後ろでもやもやとすごい数でうごめくβ線の飛跡をぜひご覧ください。

β線はこの角度が見やすいみたい。

β線の飛跡は細くてくねくねしています。
β線は電子そのものです。β線はα線(こちらはヘリウム原子核)に比較して非常に軽いので、空中の窒素分子やらなんやらにぶつかったときに弾き飛ばされてしまいまっすぐに前に進むことができません。
高校の物理で習いますが、電子の静止質量は陽子や中性子の静止質量のおよそ1/2000です。大砲の弾と銃弾くらいの重さの違いがありますので弾き飛ばされても無理はないのであります。

ということで、改造チャンバ構造はおおむね狙い通り過冷却層の厚さを増しているようです。
今回も動作させたまま1時間以上放置してました。完全に安定して動作しています。

ずーっと横に張り付いて見ていました。なんかもう試作品というよりも鑑賞対象になってしまっています。
20年以上前に久留米市の科学館で初めて霧箱を見て虜になって以来、そして横浜基地当時に上野の国立科学博物館の地下で大型霧箱を見て自作の決意を新たにして以来、ようやくようやく私の手元にいつでも見ることができる霧箱がやってきたという感じです。感無量であります。

が、これで完成ではありません。最終目標は「宇宙線を見る」です。
今は線源を使っておりますのでかなりの頻度で飛跡が出ます。が、宇宙線はもう一段レベルが高いのです。面積の小さい霧箱では宇宙線が通過するチャンスが小さいことももちろんですが、今の過冷却層の厚みはまだ足りないと思っているのです。宇宙線が過冷却層を通過して、さらにそのうちの数千分の1が偶然過冷却層内の分子と相互作用して、ようやく飛跡が出るのです。衝突断面積を上げるためには一層の条件整備が必要です。

ということで、今後は上部のアルコール揮発部分の改善に入ります。
具体的には、ここの温度を意図的に若干上昇させ、アルコールの蒸発を促すとともに、上下の温度差を拡大してより厚い過冷却層の形成を促すのです。博物館などに常設されている霧箱には実装されている機能です。その導入と条件探索に着手したいと思います。

そのほかにもまだまだやることが。
まず照明の取り付け。これ一つで飛跡の見やすさが全然変わってしまいます。ぜひかっこよくて見やすい光源を考えたいものです。
そしてアルコールの循環機構。現在の構造では上部で揮発したアルコールは冷却ステージ部で凝縮して液体に戻るという一方通行なので、時間がたつと上部のアルコールが冷却側に移動してしまって過冷却層が薄くなります。これを防ぐためにはアルコールを上部に供給することでも良いのですが、冷却ステージ上に溜まったアルコールを毛管現象で吸い上げて上部に戻し、循環させるのが最も賢いやり方です。
こうすることでチャンバ全体を密閉構造に近づけることが出来、水蒸気の流入による観察面の曇りや霜の発生を抑制することもできるようになります。

ということで、基本的な動作はほぼ出来上がったものの、まだまだ完成には程遠いです。
皆さんに「これはすごい」といってみていただけるような霧箱を目指して改良を重ねていきたいと思います。

追加で。
ぼーっと飛跡を眺めていると、初めてラドン由来のV字飛跡を見ることができました。
それもはっきりとです。
なんで飛跡がV字型になるのかといったあたりは、日本の霧箱の総本山の一つであるラドさんのこちらに記載があります。ラドン→ポロニウム→鉛の壊変系列にはポロニウムの半減期が非常に短いものがあり、いずれもα崩壊するためにラドン→ポロニウムのα線とポロニウム→鉛のα線が同時に出ているように見えるのです。つまりV字の根っこには間違いなく一瞬の間ポロニウムがあったのです。自然の神秘としか言いようがありません。魔法のようですが、物理です。みら太な日々はこのあたりに異様なまでに惹きつけられるのです。
ということで、ラドン集めない限りなかなか見ることができないV字をラッキーにも観察することができましたが、写真が撮れませんでした。それこそ完全な乱数というか量子現象なので予想のしようなどあるはずも無くです。
が、粘って構えていたらなんともう一度見ることができました。慌ててシャッター切りましたが、すでにお寿司。でもV字の痕跡だけは見ることができます。

いやとにかくずっと見てても飽きないんですよ霧箱は。
頑張ってさらに良いものを作っていきます。

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