レーザ加工機で作ったもの その6-3 アルマイトの剥離パターニング

レーザ加工機活用

この投稿ではLPA法のアイデア、で説明した説明したプロセスを実際にアルマイト板を使って進めていきます。

使うのはこの二枚のアルマイト処理されたアルミ小片。

厚さは黒が3mm、シルバーが2mmです。大き目のホームセンターなら売られていると思われるフラットバーから切り出したものです。この当行のために手切りで作りましたのでやや斜めになっているのはご愛敬ということで。

表面には傷がない状態のところを選んでいますが、シルバーについてはこのように側面に爪がかみついた時の傷が入っています。
なんでこんなことを最初から説明しているのかというと、これが次の投稿のアルマイト処理で欠陥になる部分だからです。覚えといてくださいね。

大きさは約40mmx30mmです。キーホルダにするにはちょいと大きすぎるサイズかも。

パターンは前投稿で説明に使ったひらがなの「み」を使います。
自作レーザ加工機五号機から使い始めたLightBurnを使うとデータは簡単に作れます。
まず起動して、

30x40mmの枠を書いてガイド(描画されないTレイヤー)にします。
ガイドを見ながらど真ん中に大きく「み」を書きます。フォントは商用フリーの源ノ明朝を使いましょう。
処理は塗りつぶしです。塗りつぶしというのは、下の絵でいうと「み」の黒い部分前面にレーザが当たるということです、加工機の動作としてはヘッドが左右に動きながら黒いところだけにレーザを照射するラスター(インクジェットプリンタみたいな動作)、あるいはLightBurnでいうところのオフセット塗りつぶしの二つのやり方があります。オフセット塗りつぶしは、レーザビームを黒い部分の内側から外側に向かってぐるぐると塗りつぶしていく感じで動きます。オフセット塗りつぶしのほうが境目部分の仕上がりが美しいので愛用しています。

シルバーの板はアルマイトを剥離した後、再アルマイト処理を行いますので、その際に必要となる電気接点を設けるために端っこの部分のアルマイトも剥離するようパターンを設けておきます。

ではレーザ処理に移ります。
あんまりまとめて説明する機会を作っていなかったので、ここで自作レーザ加工機五号機の構成概要を説明しましょう。

まず全景。本体はアルミフレームベースにMDFの壁、カバーの上部大部分はアクリル板になっていて加工中のワークが良く見えるようになっています。
透明だとレーザ光が漏れてきそうな気がする方もいるかもですが、その心配はないです。五号機に使っているCO2レーザの発信波長は10.6umという遠赤外線なので、その波長で見るとアクリルもMDFも真っ黒です。すべてのレーザ光はアクリル板で吸収されて止まります。止まらないときは穴が開くのでわかります(笑
どちらかというと気を付けるものは加工点から出る光です。ものによっては非常に強い閃光が出ますので場合によってはサングラスかけて作業しています。

カバーを開くとレーザ管含めた機構から光学系まですべてが丸見えになります。市販の加工機ではまず考えられない危険な構成ですが、今までに二台のレーザ加工機をフル自作した経験からくる最もメンテナンスしやすい構造がこれなのです。

レーザ管は40Wのものです。もうかれこれ7年くらい使っている管ですが、元気そのものです。

レーザの射出口付近と第一ミラー。

第二ミラーはX軸と一緒に動きます。

第二ミラーとキャリッジに乗った第三ミラー。キャリッジが左右に動いてX軸方向の加工をします。

第三ミラーの下には集光レンズ。ここまでのレーザビームは約4mmφくらいあります。そのビームがこのレンズを通過することで2inch下の焦点で約0.1mmにまで絞り込まれるのです。
レーザ管から射出される10.6umの赤外光は人間の目には全く見えません。光路をたどるには紙や木片なんかにレーザを当てて、焦げる位置を見ることで調べます。ここまでビームを正確に導き、しかもキャリッジがどこに動いても安定してビームをレンズの真ん中に当て続けるには正確な設計と正しい光学調整が必要です。

本体右側の機構部分。X軸、Y軸の駆動モータ、Zステージ昇降用のモータ、キャリッジに向かう火消用のエア配管、ケーブルガイド、タイミングベルト等々が入り乱れるところです。

制御基板。3Dプリンタ用に企画設計されたSmoothieBoardにファームウェアとしてGRBL-LPCを乗せています。モータドライバは五基積んでいるうち使っているのは二つだけ、ヒータ用の10Aくらい流せるFETでTTLレベルの信号を制御するなどいろいろ無駄な使い方をしていますが、欲しいのはSTM32のスピードなのです。PCとの接続はUSBです。5号機まで使っていたMACH3/パラレルケーブルの制御系からようやく脱却できたのであります。

こちらはZステージ昇降用にPC~SmoothieBoardの制御系統から独立しているコントローラ。aruduinoとA4988ステッピングモータドライバモジュールで駆動しています。

電源群。奥からレーザ管駆動用の(多分)15kV 20mA高圧電源、モータ駆動用24V電源、ロジック周り用の5V電源。左奥はレーザ管に流れる電流のモニタ用電流計です。

外部に付帯するコンプレッサ、排気ファン、冷却水ポンプ等はこの連動コンセントで一括ON/OFFしています。便利だしつけ忘れが無いのがありがたいです。特にレーザ管の冷却水を流し忘れると短時間でレーザ管が死にます。

その排気ファンと冷却水配管。排気ファンは霧箱作ったときに分解した除湿器から外したものを流用。

 

ファン以降の排気は窓からそのまま室外へ。結構なにおいがしますが、我が家は高台の戸建てのため隣家との境界付近では全く分からなくなります。

冷却水タンク。流しにおきっぱです(笑
そろそろ熱くなってきましたので冷却には気を使います。冷却水温度が25°を越えると顕著にレーザの出力が下がって行きます。

何とか維持。

では動かしていきます。
まずは原点出し。XY軸をホーミングさせます。動画でどうぞ。

原点出しが終わったら焦点の調整です。使っているレンズは焦点距離2inchですので、こんな治具つくってます。Trotecのパクリ(笑

描画開始。動画でどうぞ。上下ひっくり返ってますが、こっちの方が見やすいという説も(笑

F1000(分速1000mm)、パワー90%(なので、期待値としては36W、まあ実力で25-30Wというところでしょう)で描画しました。

描画直後。うっかり触るとやけどするくらい熱いです。

取り出して明るいところで改めて見てみます。黒アルマイトがはっきりと変色していますが、剥離は全く起きていません。こすっても取れるようなものではないです。

引き続きシルバー。

描画後。こちらもかなり変色していますがアルマイト層の剥離は観察できません。

ここからがLPA法のポイントである選択的なアルマイト剥離です。
SUSの皿に描画した板を置いて、

15分タイマーをセットしたら、

パイプフィニッシュの登場です。

パイプフィニッシュの主成分は水酸化ナトリウムです。両性酸化物のアルマイトは水酸化ナトリウムに溶解します。両性金属のアルミニウムもまた水酸化ナトリウムに溶解します。

十分に板が覆われる量のパイプフィニッシュを流し込み、タイマーをスタートさせます。

するとすぐに板の切断面から泡が出始めます。切断面はアルミ地金が露出している部分ですので一番に溶け始めます。泡はアルミニウムが溶解して発生した水素です。(反応式省略

まだ一分ちょっとしかたってません。

そこからさらに数分経過すると、「み」の部分にも泡ができ始めます。溶解が始まった証拠です。
この時レーザが当たってないその他の正面には一切泡が無いことにご注目ください。
レーザが当たってない部分もアルマイトではありますので溶解は進んでいるはずですが、その速度がレーザ照射部分とはかなり違って遅いのです。そのため溶解反応はレーザ照射部分だけで起きているように見えます。

さらに進んだところ。通常はこんなになる前にパイプフィニッシュを攪拌するんですが、わかりやすいようにそのままにしてました。切断面と「み」の部分はどんどん溶解が進み、その他には依然として何も起きていないことが分かります。

このくらいまでくると歯ブラシとつまようじの出番です。

黒に比較してアルマイトが溶解しやすいシルバーから攻めてみます。
爪楊枝で押さえて歯ブラシで軽くこするとみるみるアルマイトがなくなっていきます。と言ってもこの写真ではよくわからないですね。この状態でレーザ照射部分のアルマイトがほぼ全て剥離しています。

お次は黒。黒アルマイトはどこで購入したものもシルバーより厚いようで、この時間では歯ブラシでこすっても縁の部分がうっすらと線状に剥げてくるだけです。もう少し処理が必要ですので周辺の新しいパイプフィニッシュを寄せてきてもうしばらく放置します。

もうすぐ処理開始から9分が経過するあたり。放置した黒の「み」は再び泡に包まれています。
(周りの黒は依然として何の変化もありません。)

ここで改めて歯ブラシでゴシゴシやると、ようやく黒アルマイトも剥離を始めます。

この時点で10分経過しています。黒強いです。

ちなみにシルバーの方はすでに水で洗ってさっぱりしています。

この状態で「み」と右上の四角いコンタクト部分はアルミニウム地金が露出していますのでテスターで当たると0Ωです。

様子を見ながら黒もゴシゴシしていきます。もうほとんど剥離しましたね。

残り1分、つまり処理時間14分でレーザ照射部分だけが完全に剥離しました。未照射部分は依然として全く剥げてくる様子も薄くなった様子もありません。

一応15分経過まで待ってから引き揚げます。このまま2時間程度放置したことがありますが、それでもレーザ未照射部分には何の変化もありませんでした。これほどまでにレーザ照射による溶解度変化は大きいのです。改めてLPA法の特徴が際立つところです。

二枚ともパイプフィニッシュ処理が終了しました。しっかり水洗いして水気を拭き取ります。表面はアルマイトとアルミニウム地金なので布でこすったくらいでは傷一つ入りません。

黒アルマイトは剥離処理が終わった時点で完成です。あとは穴開けるなり、トップのクリアを塗布するなりします。シルバーに比べてこのコントラスト。めっちゃはっきり見えますよね。

今回の処理では残念な欠陥がありました。
このように本来剥離してはいけない部分に剥離が発生しています。これはおそらく処理前からあった傷が原因です。処理前の傷はアルミ地金が露出しているわけではないのでぱっと見では全く分かりません。傷のせいでアルマイトが薄くなっていたりクラックができていたりしたのでしょう。そこをきっかけにして弱い部分に溶解が進んでいきます。
これは事前の目視点検ではなかなか見抜けないところで、不良品発生の主因となります。パターン部分のコントラストが大きいことがウリですが、それは傷のコントラストも高いということを意味しているのです。

ここにもありました。

一方シルバーはアルマイト剥離してもあんまり見た目が変わりませんので、覚えておいてくださいねと書いておいたこの部分もどうなっているのかよくわかりません。
ということで、この次の投稿のアルマイト処理までお待ちください。

ということで黒アルマイトについてはここまでで処理終了です。

それにしてもすごいコントラストです。どこに置いてあっても目を引きますよね。

以上、アルマイトの剥離処理でした。
次はシルバーのアルマイト剥離部分に再アルマイト処理と染色を行います。

コメント