皆様アルマイト加工はご存知でしょうか。
名前くらいは聞いたことあるという方がほとんどではないかと思います。アルマイト鍋とかアルマイトの弁当箱とか。
アルマイトというのは造語で、理化学研究所によって命名されました。気持ちとしてはアルミニウムaluminumと、鉱物の接尾語としてよく使われる-iteをくっつけたものだと思われます。なんで金属のアルミニウムに鉱物の接尾語がくっついているのかはアルマイトの中身を知ると「なるほど」となるところです。これは後で説明するとして、アルマイトはアルミの表面処理方法として理化学研究所が確立した技術で、日本発の世界に誇る発明の一つだと思っています。
アルミニウムというのは軽くて柔らかい金属です。身の回りで言えば一円玉が一番身近かな。ほかにはさっき挙げた鍋とか弁当箱、そしてそれに加えて自転車のフレームや家具類の骨組みなんか、さらに最近はノートの筐体もアルミニウム合金(ジュラルミン)が多く使われるようになってます。マニアックなとことではMISUMIのアルミフレームとかも名前の通りのアルミニウムですね。
これら身の回りのアルミニウム製品の多くはアルマイト処理された表面を持っています。アルミ地金に塗装してある場合もありますが、これらは溶接や曲げ加工といった処理が必要であったためにアルマイト処理がなされなかった場合が多いように思われます。それくらいアルミの表面処理といえばアルマイトなのです。アルミ金属の地のまま使われているのは一円玉くらいじゃないですかね。
アルマイト処理ではアルミの表面に酸化アルミの皮膜を形成します。酸化アルミAl2O3は非常に硬いため本来やわらかいアルミニウムの地金を保護することができるのです。
なお、酸化アルミ自体はアルミニウムの地金を空気中にほっとけば自然にできます。が、アルマイトはこれとは異なり、かなり意図的にアルミニウム金属の表面を酸化させます。この意図的な部分が理化学研究所の発明なのです。
その意図的な酸化処理は陽極酸化と呼ばれ、電気分解の一種です。「陽極」酸化という言葉からわかるように、アルマイト処理されるアルミニウムは陽極側、プラス側、電位が高い側、に接続され、電解液中で電圧がかけられます。電解液には様々なものを使うことができますが、現在一般的なものは硫酸水溶液です。
金属に電解液中で電圧をかける、というとすぐに電解メッキをイメージしますが、電解メッキとアルマイト処理には決定的な違いがあります。電解メッキではメッキ処理をする金属を必ず陰極に接続します。アルマイトとは逆なのです。
金属は酸などに溶解する際には陽イオン(プラスイオン、カチオン)になります(中学校の化学ですね)。メッキというのは金属の上に別の金属や合金を皮膜状に形成するもので、メッキ層になる金属とメッキされる金属(金属じゃない場合もありますが、話を簡単にするためにここは言い切っておきます。)を電解液に漬けて通電することで行います。陽極側では電極を構成する金属から電子が剥ぎ取られて酸化された金属陽イオンが電解液中に溶け出し、陰極側では金属陽イオンが電子をもらって還元されて金属原子に戻り陰極上に皮膜を形成していきます。
一方アルマイト処理では、陽極側にアルマイト処理される金属アルミニウムを接続します。陰極側はなんでもいいとまでは言いませんが、まあなんでもいいです。鉄や亜鉛なんかにしてしまうと硫酸水溶液に漬けた時点で溶解(これも酸化反応ですがそれは置いといて)が始まってしまうので、そうならない金属を使ったほうがやりやすいでしょう、鉛をお勧めされている例が多いようですが、私は陰極側にもアルミニウムを使っています。アルマイト処理を行うときの硫酸濃度は10-17w%くらいですが、ここに金属アルミニウム板材を突っ込んでてもほとんど溶解が問題になることは無いです。この辺の濃度なら硫酸の酸化性は高くないのでもう少し溶けそうな気もするんですが、結果として溶けてないです。のでこのままやってます。
話が反れました。この状態で通電をしますと、陽極側ではアルミが電子を奪われて硫酸根をカウンター陰イオン(アニオン)とする硫酸アルミニウム塩となってそれが水に溶解する反応(この時陰極側では硫酸から電離した水素イオンが電子をもらって水素ガスになり泡ができる)と、電解液の水が電気分解されて陽極側では酸素が、陰極側では水素が生成する反応が競争的に起こります。で、この時の陽極側での反応をもう少し詳しく見ると、金属アルミがまさに電子を置いてイオン化(陽イオン化)しようとしてふと横を見ると、そこには水から電離した酸素イオン(陰イオン)が陽極にクーロン場で引き寄せられてきてまさに電極に電子を渡そうとしていることに気がつきます。ここでアルミニウムイオンができる選択は二通り、すなわち「硫酸根をカウンターアニオンとして可溶性硫酸塩になり、電解液中に溶け出す」と「酸素イオンをカウンターにして不溶性の酸化アルミニウムになる」です。で結果としてほとんどのアルミニウムイオンは酸素と結合して酸化物となり陽極表面に酸化膜として堆積し成長していきます。この酸化膜がアルマイトそのもの、そして多くの鉱物と同じ酸化物であるがゆえにアルミニウム+マイトでアルマイトなのです。多分。
さて、この反応を遠くから眺めると、電解液中のアルミニウム陽イオンの濃度はあんまり上昇せず、ぱっと見水が電気分解されているだけのように見えます。が、陰極側からは盛んに水素ガスの泡が発生するものの、陽極側からはほとんどガスの発生がありません。それは発生するはずの酸素はほとんどアルミニウムの酸化に使われ、アルマイト層に取り込まれてしまうからです。
長々説明しましたが、アルマイトはこのように電気を使って金属アルミニウム表面に硬い酸化膜を成長させる処理方法です。
で、ここからがみら太な日々的にはむしろ大事なのですが、この酸化膜が形成されていくとき、その性状は「べたっとした滑らかな膜」ではなく「ポーラス(多孔質)な柱状構造をもった膜」として成長します。ミスミの技術情報にわかりやすい絵があります。ご参照ください。
この多孔質膜は活性炭なんかと同じように見た目の面積に比べてフラクタル構造による実表面積が巨大なものとなるため、大量の物質をその内部に物理吸着することが可能になっています。この孔に色素を吸着させることでカラーアルマイトを作ることができるのです。多孔質構造体は酸化アルミニウムそのものですので、吸着した色素は非常に硬い壁に守られることになります。これがカラーアルマイトが傷に強く、少々こすれたりしても剥げたり色落ちが起きたりしない理由です。
さらにさらに、カラーアルマイト処理では陽極酸化によって多孔質アルマイト層を成長させ、着色を施したのちに「封孔」処理を行います。これは表面に開いた無数の穴を閉じる処理です。
封孔処理は、ケミカルに見ると最表面アルミナの水和、水酸化物形成といった難しそうな話になります。が、実際にやることは沸騰水の中で煮るというだけです。
助剤として酢酸ニッケルなんかを入れるとより一層しっかりとした処理がなされるようですが、私のここまでの経験では「煮れば十分」です。水と熱があれば後は勝手に水和が起きるということです。
封孔処理をフィジカルに見ると、酸化アルミの水和による膨潤です。穴のまわりが膨潤して穴が小さくなって、最後は閉じてしまう。ということです。
やわらかいアルミニウムの表面に硬い酸化膜で保護できる。多孔質膜の中に色素を吸着させて染色できる。色落ちを防ぐために孔に蓋ができる。いやはやなんと都合の良い現象でしょうか。この基礎基礎技術を確立した理研は本当にすごいです。
さて、みら太な日々ではこのアルマイトに以前より注目しており、いずれやってみたいプロジェクトに挙げ続けておりました。
2015年のこの投稿ですでに言及しておりますが、アルマイト処理とCO2レーザ加工機による処理を組み合わせることで非常に面白いことができるだろうと思っていたのです。
今回そのアイデアを実行し、ほぼ思惑通りのものつくりができました。ということで、ここからは「レーザ加工機で作ったもの6」の派生としてレーザ加工とアルマイト処理を組み合わせたものつくりのアイデア、手法、作ったものについて投稿していきたいと思います。
投稿は大きく
①アルマイトとは ←この投稿
②LPA法(勝手に命名)のアイデア
③レーザ加工によるアルマイト剥離パターニング
④アルマイト剥離部分へのアルマイト再形成と染色
⑤作ったものいろいろ
に分けて書いていきたいと思います。
なお、トップの画像はホークス&中村晃ファンの妻のために家族サービスで作製したアルマイトタグです。こんなかっこいいものが作れるのです。すごいでしょ。
ええ、晃の公式写真からがんばって加工した右側のタグは「長谷川にも見える」と却下されましたが(笑
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