工房設営 その10 PM-3700C分解

分解

 
つくると!5も終了して一段落しました。
ということでいまいち散らかったままの工房設営をすこしずつ整理していきたいと思います。
設営、あるいは必要なものを置くという意味では一定の状態まで来ている工房ですが、一方で必要ではないものの整理がいまいち、いや全然できていません。これまでに買いだめたジャンクが家の中のあちこちに散らばっております。今のところそれほど置くところに困っていないのですが「そのうち片づけよう」などとと言っているといつまでもこのままになってしまいます。ということで何台か分解を行い有用部品を回収、残りを廃棄しました。
まずはA3プリンタ、EPSONのPM-3700Cです。珍しいA3対応のプリンタです。図面を印刷するのにA3くらいまで使えればいいなと思ってハードオフのジャンクで入手しました。確か500円じゃなかったかと思います。
買った当初は順調に動いていたのですが、ある日突然印刷が出来なくなりました。ヘッドも動くし、インクも入っているんですがなぜかプリントできません。いつもなら粘り強く解析を行うところですが、実は同じものをもう一台やはりジャンクで入手しており(笑)そちらは好調だったため調子が悪いこ奴はそのまま引退となりました。

これ。

2002年ころの製品です。かなーり古いです。8kg以上と非常に重たいプリンタであります。

上部蓋を開けるとインク交換作業ができるようになっています。

スイッチは電源以外は二つと非常にシンプル。このほかに下の写真にぎりぎり端っこが見えている黄色いボタンがあります。これを押すとインクカートリッジ交換のためにヘッドが左端に移動してきます。

こんな感じ。
実はプリンタを分解するときはこの状態で始めるのが効率が良いです。これマメ知識。
なぜかというとヘッドが右側のホームポジションにあるときはロックがかかるようになっているモデルが多く、ヘッドにロックがかかっていると分解の時に作業が面倒になるのです。印刷終了時にはヘッドがホームポジションに移動するため、正常に動いた後の状態で分解を始めるとロックがかかったまま作業をすることになります。
大抵のプリンタは蓋を開けたり、いずれかのボタンを押すことでカートリッジ交換のためにヘッドがホームポジションから出てきますので、通電可能なプリンタならその状態でコンセント引っこ抜いてヘッド止めてから分解すると楽です。

では分解開始。
単純な分解なので計画性は皆無でOK。とにかく見えるネジを外し、外せる勘合を外していきます。

筐体の形や製品動作を考えると筐体のどのあたりが固定されていないといけないかはおおよそ想像がつきますので、設計者の意図を想像しつつネジさがします。
よほど間抜けな設計者じゃない限り表裏からねじで止めるような構造にはしません。そんなことをすると組み立て工程で製品をひっくり返さないといけなくなりますのでラインから大クレームをもらうことになります。ということで、ほとんどの筐体は少数のネジと爪による勘合で固定されています。

メインカバー外れました。メカ部がむき出しになります。
古いプリンタは板金の芸術というかなんというか、金属フレームがネジ止めで組み合わさって出来ています。頑丈な作りです。重たいはず。

左側の紙送りモータ部。モータはギアの奥で見えていませんが、手前にはロータリエンコーダの板が見えます。時計みたいな数字まではいってますね。珍しいです。

この板の外周に刻まれている線の通過をフォトインタラプタで計数することで軸が何度回転したかを検出してフィードバックをかけています。

標準的な家庭用IJプリンタではモータが3個使われています。
一つが紙送り、もう一つがヘッドの往復、最後がインククリーニングと給紙です。
プリンタの動作は非常に複雑ですが、一連の動作をわずか3つのモータで行っているのです。
これはヘッド往復のためのモータ。普通のDCブラシモータです。マブチモータで売っているやつがついていることが多いです。ほとんどのプリンタで筐体を開けたときにすぐ見えるモータはこのヘッド送りのモータだけです。

この状態になってからもやることは基本的に同じで、とにかく見えるネジを外していきます。

IJプリンタを分解するときのお目当ての一つがヘッドが往復するガイドとなっているシャフトです。エプソン製は9mmφ、キャノンは8mmφが多いです。

これですね。このシャフトは真直度が高くいので実にいろいろ応用ができます。
みら太な日々では自作レーザ加工機のXY軸にそれぞれ二本、Z軸昇降ステージには4本のジャンクシャフトを使っています。

シャフト抜きます。ヘッドがホームポジションにあってロックがかかっているとこのさぎょうをやるのにすごく手間取るのです。

さすがA3対応プリンタです。500mm以上あります。よくあるA4プリンタだとここまでの長さのシャフトは入っていませんのでありがたいです。

シャフト抜いたら、このヘッド駆動用モータを外します。ねじ二本で止まっています。

タイミングベルトがはずれたらヘッドを分離します。

タイミングベルトはこのようにヘッドの裏にある溝に押し込まれているだけですのですぐに外れます。
IJプリンタのタイミングベルトはすべてクローズエンドです。

EPSONのプリンタのヘッドには多数のピエゾ素子が並んでおり、それらが独立して制御されるため引き込み線は非常に本数が多いです。このフラットケーブルもほかの工作に流用可能ですので、はさみで切ったりせずにきちんと回収します。

フラットケーブルって買ったらめっちゃ高いです。ここは慎重に回収します。

ヘッドが無くなりました。かなりすっきり。

後から見たとこ。丸いパンチングの中は電源が入っています。

引き続き外せるパーツを外していきます。

印字が行われるベッド部分の板を外すと、

紙送りモータが見えます。このモータもDCブラシモータです。
回転角度は先ほどのロータリーエンコーダで検出できますのでここのモータは正逆転出来れば十分なのです。

ロータリエンコーダ部を分解して紙送りモータを外します。

次に電源基板。開けてみたら奥にはロジックの基板もありました。

ロジック基板からはヘッドにつながるフラットケーブルが出ていますので、慎重に外しておきます。

ここまでで進捗は65%くらいかな。

こんなに長いフラットケーブルが回収できました。今後設計する新型レーザ加工機に使うことにします。
コネクタは基板から回収しません。秋葉の日米無線電機やAitendoにはいろいろなピン数のフラットケーブルコネクタが売ってますのでそれを使うことにします。ということで、回収したケーブルの線数を確認しておきます。このプリンタには3,4,12,15Pといったあたりのケーブルが入ってました。

続けましょう。基板外します。

電源。プリンタはロジック駆動電圧、モータ駆動電源電圧、ピエゾヘッド駆動電源電圧と複数種類の電圧を生成する必要があります。左上に見える出力ケーブルの本数も多いです。電源としては面白いのですが、供給できる電流がそれほど多くないのであまり魅力がありません。この先やるとすれば部品取りくらいかな。

こちらはロジック基板。手も足も出ません。

これが印刷データをピエゾヘッドの動作に変換するMPUと思われます。

これはファームでしょう。入れ替えられるようになっています。左側はおそらくメモリ。

これは形と足の太さからみてモータドライバだと思います。調べてないけど。
ロジック基板から回収するとすればこのモータドライバくらいですが、ソケットではないのでハンダ外すのがめっちゃ大変です。今回はやりません。

本体に戻ります。

例のロータリーエンコーダのパーツ。

なんか使い道があるような気がするのですが、思いつきません。

このシャフトはこのように紙送りのための粗し加工が施されています。
ひと昔前のプリンタはここにもゴムローラーが使われていたのですが、コストダウンとジャム防止を追求した結果これに落ち着いているようです。サンドブラストでもかけたようなざらつきでよく紙に喰いつきそうではあります。
こんな加工が施されているゆえに応用が利きません。何か思いつきません?

本体もこんだけになってしまいました。
残りは給紙とヘッド洗浄メカ部分です。

これがそのAssy。モータと樹脂歯車の塊です。ここだけはステッピングモータが使われています。低速回転でのトルクが求められる給紙動作、およびヘッドの洗浄のためと思われます。
この部分の構造は非常に複雑で、何度見ても理解しきれません。ステッピングモータの正転と逆転で動作が全く異なります。一方は給紙動作、もう一方はインクの吸引です。
この辺りはもう一台のプリンタをばらした写真で詳しく見てみたいと思っております。

ここではとりあえずモータ取っ払ってあとは捨てることにします。

実はこの部分にはスクイーズポンプ、いわゆるペリスタポンプの小型版が作り込まれています。わかりますかね。しごかれるチューブにはしっかりしたシリコン製のものが使われており、お宝の山であります。惜しいのはスクイーズポンプが一方向だけの動作になっているということ。ヘッド清掃はインク吸引動作のみで戻すことはありませんので、ローラーが吸引方向の時のみチューブをしごくよう実に巧妙な構造をしています。逆転させるとローラーはチューブから外れます。そうその時は給紙動作が行われているのです。
実に考えられた設計です。素晴らしい。

最後はこんなベース板が残っただけです。プリンタの構造は板金のねじ止めで作られているというのがよくわかりますね。

板金類はさすがにリサイクルを思いつきません。ので燃えないゴミとして処分し、処理工場で素材としてのリサイクルに回します。

では成果物を確認しましょう。全体を見るとシャフトが目立ちますね。これは応用が利くうれしい成果物です。そこらのホームセンターなんかではまず手に入りませんし、モノタロウやMISUMI-VONAには売ってますが最低でも一本数百円。送料考えると1000円では手に入りません。この時点でこのプリンタの購入価格を越えますので元は取ったと言えます。

フラットケーブルも重要な成果物です。買うとめっちゃ高いです。
プリンタから取り出すとあちこち曲げられてはいますが、そうそう断線するものでもありませんので十分に再利用可能です。コネクタさえ見つければいいのです。
今回回収されたフラットケーブルはすべて1mmピッチなのでコネクタは秋葉で容易に手に入ります。

モータ。DCブラシモータ2個。二相バイポーラのステッピングモータ1個。

ひょっとしたら何かに使えるかもしれない樹脂ギア。
IJプリンタ分解するとギアは山ほど手に入りますが、カムと一体化していたり、異形のレバーが伸びていたりと使いまわしがきかないものが多いです。その中から比較的素直な形をしているものを選んで取っておきます。

ベルト。長いものはヘッド駆動用。短いのはヘッド洗浄機構のところに使われていたものです。
短いベルトも使い道はあります。かなり昔ですが、卓上丸のこ盤を作りました。今でも十分に便利に使えています。

バネ。一台のプリンタからこれだけ取れるんですよ。信じられます?
形もピッチも硬さも様々で実に応用が利きそうであります。

整理してみました。こんなものが手に入るだけでも分解する価値があるというものです。
下に並んでいる棒は1mmと1.5mmφの短いシャフトです。これも探して手に入るものではありません。持っといて損はないです。

最後にねじ。一台からこれだけ回収できます。すごいでしょ。
タッピング、小ねじ、鍋、バインド、セムスと様々な種類のものが手に入ります。
何度もしつこいですが、これ買っただけでも数百円はすぐしますよね。

整理しますと、なんと小ねじが61本、タッピングが17本ありました。ほぼM3でちょうど使いやすいところです。

得られた成果物はそれぞれジャンクパーツストッカーに納めます。
ばねだけでもこんなにあります。過去分解してきた数十台のプリンタやスキャナから回収されたものです。これだけあるとなんの作業をするときも間違いなく使えるバネが見つかります。

ベルト(笑 一体今までに何台分解したんでしょうね。

樹脂歯車。そろそろ引き出しが限界であります。

ということでプリンタの分解でした。

みら太な日々ではジャンク品の分解を激お勧めしております。ハードオフなんかでジャンクを入手するのに必要なお金はせいぜい数百円、場合によっては100円です。たったそれだけの投資で数時間を楽しく過ごすことができます。
そして、その投資は分解によって得られる数千円分のリサイクルパーツで十分に回収することができます。
また優れた製品の分解を通じてモノつくりの知識を得ることができます。分解を学ぶということは組み立てを学ぶということと同じです。分解しやすい構造は製造しやすい優れた設計です。メーカーの製品は経験豊かな優れた技術者が構想し、レビューを繰り返すことで行きついた究極のコストパフォーマンスを持つ設計になっています。これから学ぶものは非常に多いです。
さらにさらに分解は、成果物を回収した残りがきっちり金属やプラスチックなどの素材にに分別されるという自然にやさしい活動です。
分解はすばらしい。皆さんどんどん分解しましょう。

コメント

  1. こう より:

    サンドブラストされたシャフトの使い道として最近発見したのですが、自作カニ網のシンカーにぴったりでした。ますます捨てるところが無くなりました。

  2. こう より:

    ぺリスタポンプも、魚活かしバッカン用ブクブク(エアポンプ)を作って使ってます。