ペルチェ素子冷却霧箱の作製 その3

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ペルチェ素子について少々調べてみました。
実験的にやっていくのもいいのですが、このデバイスに関しては私が疑問に思うようなことはすべて解決しているはずですのでそれをもらうことにします。

で、いろいろ調べて私なりに到達した結論は
 「低温を得たければホット側の放熱を改善せよ」
というものです。

トラ技の2007年3月と5月に田澤 勇夫氏によるペルチェ素子を使った恒温槽の製作記事があり、その中でペルチェ素子の基本が解説されています。この記事を中心にネット情報等でおおよその基本を頭に入れました。
ざっとまとめておきますと、

ペルチェ素子の特性を表す重要なパラメータは、最大電流、最大温度差、最大吸熱量で、特に最大温度差、最大吸熱量です。
最大温度差は、コールド側を断熱状態にして吸熱をゼロにしたときに到達できる素子の表裏の温度差、最大吸熱量は素子周りの熱抵抗をゼロにして最大電流を流したときにコールド側からホット側へ運搬される熱量です。このとき素子周りの熱抵抗はゼロですので、コールド側はいくら熱を引いても温度が下がらず、ホット側もいくら熱を捨てても温度が上昇することはありません。したがってこのとき素子の裏表は同じ温度になります。

ペルチェ素子の使用環境は、断熱状態でも熱抵抗ゼロでもありませんから、最大温度差も最大吸熱も実際には実現出来ないことになります。
実環境でより低温を目指すならば、表裏の温度差を出来るだけ大きくし、かつホット側の温度上昇が最小限になるように一生懸命放熱することです。
表裏の温度差を大きくするだけなら電流を増やせばよいですが、電流を増やすとコールド側から輸送される熱の増大に加えて、電流による素子自体のジュール発熱も増えますので、さらに放熱を改善しないとホット側が温度上昇してしまいます。これではスタートラインが後退してせっかく稼いだ温度差が無駄になります。
二段目のペルチェ素子を加えて、一段めのホット側を冷やすというのは良い方法ですが、これは二段目のホット側の放熱をよりいっそうしっかりやらないと、一枚のときよりも全体のジュール発熱が増加している分到達温度が上がることなりかねません。
結局、放熱が大事なのです。

ということで、今後目指すべきは「素子を駆動してもホット側の温度が上昇しない放熱を実現する」ことであると思います。このような放熱を実現できれば、ペルチェ素子を重ねた分いくらでも(というのは語弊がありますが)コールド側の温度を下げることが出来ると考えられます。

このような情報を頭に置きながらいくつか実験を行ってみました。

二枚重ねの実験をしますので、カホパーツで購入したやつも投入します。フェローテックの製品です。

スペックはこちら。ほぼ秋月のものと同じです。

二つのペルチェを並べるときのブリッジ用に購入した銅版。

カホパーツのものは線が引き出されておりませんので、極性を確してリード線をハンダ付けします。

できるだけ大きな放熱板を準備。

こちらの面を使って、

カホパーツペルチェを二つ並べて、

銅版でコールド側をブリッジし、

秋月のペルチェを置いて、

さらに詳細不明の小ペルチェを乗せます。ホット側のペルチェ素子の面積が大きくなっていくという構成だけは完璧な3段スタックです。

作っていきます。一段目を配線します。

直列に繋ぎました。駆動電圧は高くなりますが、電流が同じになります。

銅板を置いて秋月素子を乗せます。この素子も直列に接続します。合計3枚の直列接続です。
この段階で温度を測定してみました。

最大電流6A/9Aの素子に3Aを流します。

-6℃とそこそこ下がりますが、思ったほどではありません。二段にするとどーんといくかと思ったんですけどね。おそらくホット側の放熱が足りないと思われます。結構あったかくなっています。
これは三段重ねにしても多分だめです。

ということで、やっぱり強制空冷だよなと思い直してこちらのヒートシンクに変更。
….ですが、この構成ではやはり-6℃くらいと振るいません。で、ホット側はファンをまわしても結構あったかいです。さすがこのヒートシンクでは素子3枚分の放熱は荷が重いようです。

ではこれはどうか、

さらにこれなら、 ということでいろいろと構成を変えてやってみました。
下の写真の構成はペルチェ素子二枚ですが、一段目が小さいので全体の発熱量も少ないようで結構下がっていきました。

しかしながら、ホット側は結構温度が上がっています。それを無理やり二枚重ねで下げているという感じです。ですが、さすがは強制空冷のヒートシンクで、これ以上ホット側の温度が上がることはありませんでした。

盛大に霜がついております。

時間の経過に伴いさらに温度は下がっていきます。このあたりからは温度計の精度が怪しいので、放射温度計を併用します。これとて放射率が良くわかりませんので精度は疑わしいですが….

最終的に-17℃まで下がりました。なかなかのものです。

さてここで本日の秘密兵器(笑 巨大なアルミブロックです。これは相当な熱容量があると思われます。これに乗せて駆動してみます。 ちょっとやそっとの加熱ではほとんど温度上昇はないと思われます。

これに先ほどの二枚重ねを乗せます。

いきなり-20℃を下回りました。この温度計では測定限界温度以下のはず。
注目はホット側の温度です。ほとんど上がりません。さすが。

このときの温度を放射温度計で測定すると-26℃でした。やはりホット側の放熱が十分だと恐ろしく温度が下がります。裸でこの状態ですから、容器の中に置けばもう少し下がることが期待できます。
ですが、この構成では低温面の面積が小さいので、もう少し大きくしたいところです。

ということで、大きな素子の二段重ねをやってみました。

これでもそこそこ下がります。この面積で-20℃以下まで下がれば霧箱として使えそうな気がします。

さらに時間が経過すると-23度まで下がりました。すばらしい。

さすがのアルミの固まりもほんの少し暖かくなってきましたので、別のブロックに取り替えます。

-25℃まで下がりました。
やはりホット側をきっちり放熱してやれば行けそうです。

ここで、念のため一段のものも実験してみました。

こちらも結構下がります。

一段でも-22℃まで下がりました。
これをみるとむしろ2段重ねの効率の悪さが気になってきます。 重ねても数度しか低くなってないということですよね。それだけ全体の発熱が大きいということでしょうか。

さて、結局脈絡のない実験となってしまいましたが、ホット側の放熱をちゃんとやれば十分に低温を確保できることだけは確かなようです。
ペルチェ素子の組み合わせはもう少し遊んで実験してから決めたいと思いますが、放熱部分の構成だけは本日の経過を見て決めました。

 水 冷 に し ま す 。

水冷にすることでヒートシンクをなくすことが出来ますので霧箱の大きさをかなり小さく出来ると思われます。また、タンクを大きくして水の量を増やすことで熱容量をいくらでも大きくすることが出来ると期待されます。それに水道水は通常気温よりも低く、入れ替えることで簡単に上昇した温度をリセットすることが出来ます。さらにさらに、ここ一発のときは氷を放り込めば思い切りホット側を冷やすことが出来ます。
真夏のMakerFaireでの連続運転を考えると水冷は信頼性の点でも良い選択ではないかと思います。

ということで本日も一歩前進であります。

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