ガス冷却ペルチェ方式霧箱 その40 軌跡を確認

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ペルチェ素子の最低到達温度実験にかかわるよくわからなかった問題、解決しました。
ポイントはこれでした。

はい。熱伝導グリスです。これの塗り方で10℃近く温度が動いてました。恐ろしや。

これまでの一連の実験でもグリスは使っていましたが、あんまり考えずに塗って乗せていた感じでした。
が、過去3投稿くらいの、どう考えても思っていることと違う実験結果を改めて考え直してみますと、さらに言えば、実際は投稿にまとめているよりもはるかにたくさんの実験(とても投稿できないようなアホな実験も含めて)をやっているわけですが、それも含めて考え直してみますと「どうも再現性が低いんじゃね」という思いに行きつきました。
原点に立ち返る意味で、全く同じ条件(と思っていた)で複数の実験をしてみても、結果が再現するときとしないときがあるのです。
行き当たりばったりやっているときは、複数の条件を一度に変えたり(実験計画法でもない限りこれはやっちゃいかんやつです:笑)しますので、混乱に拍車がかかるわけですが、冷静に考え直してみてもやっぱりおかしいのです。

そこで、このグリスに目をつけました。
考えてみたら、25℃くらいの環境でー30℃付近の実験をしているわけですから、温度差50℃以上です。ちょっとした熱伝導ロスが大きく結果に影響を与える可能性があります。
ということで、それまで適当に(つか多めに)塗っていたグリスを一旦拭き取って、改めてごく少量のグリスをペルチェ素子に乗せて、しっかりとガス枕と共擦りして薄膜かつ隙間なしで接するように注意深くセットしました。
共擦りをしっかり行うと、薄いグリスを介してペルチェ素子とガス枕がしっかり密着しますのでペルチェ素子がほぼ動かなくなります。これまではグリスが多すぎたのでしょう、ペルチェ素子がずるずるというほどではないものの、簡単に手で動かすことができる状態でした。手で簡単に動くということは、グリスが多すぎた可能性が高いです。熱伝導グリスは「熱伝導」といいつつも、熱伝導率はアルミや銅の数十分の1しかありませんので、薄いほうが良いに決まっているのです。

ということで、ペルチェ素子1枚をしっかりと密着させて、そしてさらに、ガス枕全体をしっかりと断熱材で覆って、改めて実験をしてみました。

通電前。断熱材が効果を発揮しています。さらに数度ガス枕温度が下がっています。

この状態で通電すると…..
わずか10秒程度でー40℃まで一気に下がりました!
これだったのか…..

一気に下がった後はぴたりと安定です。

そのまま30分くらい放置してみましたが、まったくもって安定です。
ガス枕の温度が若干上がってきますが、それもここまでで、-10℃を上回るようなことはありませんでした。

サービスポートの先までびっしりと霜でおおわれています。

ペルチェ素子の周りにもびっしり霜がついていますが、ペルチェ素子とガス枕の界面はぴったり密着していますので、氷は全くないはずです。
素晴らしい。これならいけますよ。

-40℃まで下がってくれれば絶対に軌跡が見えるはずです。

 ということで、我慢しきれずにペルチェ素子の上の熱電対外して、黒いアルミ板を乗せ、チャンバをかぶせて突貫霧箱を作りました。

満を持してアルコールの登場。エタノール80%、IPA20%の消毒用です。

アルミ板上の温度を測定することはできませんが、-40℃近くまでは下がってくれるはずです。

LEDライトをチャンバ横から光が当たるように置き、ガス枕が十分に冷えたところでペルチェ素子に通電しました。

すると…..動画でどうぞ。

ついに軌跡が出ました。成功です。
画面内の金属棒はトリウムタングステン溶接棒です。微量のトリウムが入っておりアルファ線を出すのです。自然界のトリウムはほぼトリウム232(232Th)で、α崩壊なので、ヘリウム原子核を放出して原子量は4減り、ラジウム228になります。

いやうれしいです。紆余曲折ありましたが、ガス冷却でもDIY霧箱の実証ができました。
大きなヤマを越えました。
しかし、完成までにはまだまだやらなければならないことがたくさんあります。ひとつづつこなして皆様に喜んでみていただける、自然の不思議を体験していただける霧箱に仕上げていきたいと思います。

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