次期プロジェクト

その他のプロジェクト

 
MFTが終わった後はすぐに何か作りたくなるものですが、今年はなぜかMFT前から作りたいものがいろいろありました。
とりあえず、レーザ加工機の大型のものはすでに設計に着手しておりまして、これはそのまま続けていく予定です。次号機はホームセンターに売っている300*600mmのアクリル板をそのまま乗せて切ることができるマシンを作ることを計画しています。
CO2レーザ加工機の自作はもう3台目ですのでメインの投稿としていくには少し弱いよなと考えておりまして、もう一つネタを作っておきます、それは去年の九月に再起動宣言した後放置している霧箱です。
霧箱もすでに扱ったネタではあるのですが、当初目標である「スイッチ入れれば動く」をまだ達成できておりません。16年にMFTに出したものは水冷、しかも冷却水を氷で冷やしながらという手のかかるものでした。霧箱には大きな思い入れがあるにも関わらずこういった経過のため、不完全燃焼感がずっとのこっています。
そんなこともあり、ここ一年ほど霧箱を改善するためのアイデアをいろいろ練ってきました。まずはシンプル思考ということで空冷ペルチェ方式を中心に、ハードオフに行くたびによさげなヒートシンクを漁り、一方でネットで高級ヒートシンクに使われている技術であるヒートパイプの情報収集を行っておりました。そして、自作ヒートパイプをアピールポイントにした空冷ペルチェ冷却式霧箱、というテーマを定め、時間を見てはちょこちょこと実験をしてきました。こんな感じのセットアップで。

が、どうもこれはうまくいきそうな感じがしないのです。自作ヒートパイプというのは実に魅力的なテーマではありますが、ヒートパイプで熱を移動させた後の冷却手段が空気である以上、室温以下には冷やすことができません。これは、ペルチェ素子のホット側を室温以下にはできないこととおなじですので、結果として氷水冷却方式以上の結果を得ることができないと思われるのです。
じゃあ冷却する空気を冷やせばいいじゃないかと(この辺から道を踏み外しつつ)こんなものを買ってみたりしました。これ何だかわかります?

こ奴はボルテックスクーラーというもので、圧縮空気を噴出させる際に出口とそれに続くチャンバの形状でスワールを発生させ、中央部に低温空気塊を生成するというものです。
条件により-60℃という冷気を作ることができるらしいということで大いに盛り上がったのですが、思いのほか量が取れません。冷たいことは冷たいのですが、生成する冷気の量が少ないために「冷たい風で冷やす」という感じではないのです。何よりコンプレッサーが必要なうえにずっと回り続けますのでうるさいことこの上ないです。
そもそも空気を冷やす効率が良ければボルテックスクーラーが天下を取っているはずですよね。そうなっていないということはやはりどこかに課題があるのです。

ならばほかに空気を冷却する方法は無いか…….いやいやこう考えてはいけないのです。
私はつい目の前の課題をねじ伏せることばかり考えてしまいがちです。空冷が室温までしかできないのであれば、その空冷の風の温度を下げればよいではないかと短絡的に考えてしまいがちです。が、そもそも空冷でなんとかしようと思っていること自体が考えなおすべき点なのです。大局を見るべきであります。

立ち戻って、
まずペルチェを使う。これは条件として外さないことにします。であれば、最も根本的な課題はペルチェのホット側をどうやって冷やすかであって、空冷も水冷もそのための一つの手段に過ぎないのです。
ではそれ以外に何か良い方法があるか…あるじゃあないですか。皆さんのお近くでもいまフル稼働しているものが。

ということで、次期プロジェクトを「ガス冷却ペルチェ方式霧箱の作製」に定めました。

これがひと月ほど前の話。で、早速ネットで情報収集を始めまして、いくつかのキーパーツの手配を行っておりました。そして到着したのがこちら。

メルカリで手に入れた除湿器です。

除湿器にもいろいろ方式がありますが、手に入れたのはヒートポンプ式除湿器です。
ヒートポンプとは文字通り熱を汲み上げるポンプです。エアコン、冷蔵庫の基本原理ですから世の中のほとんどの方が毎日お世話になっている技術です。
ヒートポンプ式の除湿器は、簡単に言えばエアコンの室外機と室内の本体が一つの箱に収められたようなもので、内部に冷たい部分と暑い部分が共存しています。なんかマッチポンプみたいな構造ですが、その通りでありまして、冷たい部分(これをエバポレータ:蒸発器といいます。)と熱い部分(あちこちにありますが、わかりやすくラジエータとします。)が重なった状態で配置されて、そこにエバポレータからラジエータを通って風が流れるようにファンが取り付けられています。
ファンが回ると室内の空気が吸い込まれ、まずエバポレータで冷やされます。空気が冷やされて露点を下回ると結露が生じるのは中学校理科で習いましたよね。この原理に従ってエバポレータには結露が生じます。この時こそが室内の空気が除湿される瞬間です。
結露した水は自重で下に流れ落ち、タンクにたまります。一方除湿された空気はそのままファンにひかれてラジエータを通過します。ここで空気は温められて再び室内に放出されます。以下これが繰り返されて室内の空気から水が除去されるのです。
この時、エバポレータとラジエータを別々の空間に置いたのがエアコンであり、冷蔵庫です。冷やした後の空気は冷えたまま使い、ラジエータは別の手段で冷やすのです。エアコンの場合は室外にラジエータを置き、ラジエータ専用のファンで冷やします。冷蔵庫は背中の部分が熱くなってますよね。あれを室内(冷蔵庫外)に捨てているのです。

ではなんで熱い部分と冷たい部分が作れるのか。ここからは高校化学の範疇に入るかな。
理系の方は頭にあるかもですが、空気の状態方程式というのがあります。

 PV=nRT 
 ※異論もあるかと思いますが、私は化学屋なのでこの形を使わせていただきます。

という気体の圧力と体積と温度の関係式です。圧力と体積の積は絶対温度に比例するというものです。
いろいろ説明のやり方はあると思いますが、この式は「ある系の圧力と体積の積が変化しなければ温度は変化しない」と読めます。逆に「ある体積の空間の圧力が高くなると温度も高くなる」「ある体積の空間の圧力が低くなると温度も低くなる」とも読めます。
ヒートポンプの中には冷媒が閉じ込められています。環境問題で取り上げられるフロンガスが有名ですね。ヒートポンプ内のフロンガスはパイプ状の流路に閉じ込められ、その流路はぐるっと輪を描くように作られています。そしてその輪の途中にエバポレータとラジエータ、そしてこの流路内に圧力差を強制的に作り出すためのコンプレッサが配置されています。
コンプレッサは流路内のフロンガスを圧縮してラジエータ側に送り込みます。ラジエータを通過したガスはそのまま押されてエバポレータに進みます。そしてエバポレータを抜けたガスは再びコンプレッサの吸い込み側に戻ってきます。

へ?
それでは何も起きないでしょ?と思ったあなたは正しいです。このままでは掃除機の吸い込み口を吹き出し口にあてたみたいなもんで、中をガスがぐるぐる回るだけです。
ポイントはラジエータとエバポレータの間にあります。実はここの接続部分が非常に細い流路(キャピラリ)になっているのです。流路が細いと流れにくくなりますから、ここを通れるフロンガスの流量以上のガスをコンプレッサが送り出したとすると、当然キャピラリ手前ではガスの渋滞が起きて圧力が上昇します。一方でエバポレータ側はコンプレッサにガスが吸い込まれていくのにキャピラリのせいでラジエータ側からはそれを補うだけのガスがやってきませんから圧力が下がります。こうやって閉鎖された空間内に圧力差が生じます。流路はパイプで外界と隔離された閉鎖空間ですので体積は一定です。ここに圧力の差が生じると、状態方程式に従って低圧部分の温度は下がり、高圧部分の温度は上昇します。これがヒートポンプの最も簡単な原理説明です。
あとはわかるな..というのは乱暴なのでもう少し。

この時に圧力が高い側の熱を何らかの手段で外部に取り去ることができるなら、低圧側にはあらかじめ冷やされたガスがやってきてさらに圧力が下がりますから、やってきたガスは熱を外部に取り去られたときの温度よりもさらに下がります。そしてこの時、エバポレータ側を何らかの手段で外部から温めることができれば、温められたガスはその熱と共にコンプレッサに吸い込まれていきますので外部の熱をコンプレッサより向こうへ移動させることができます。そしてその熱をラジエータ側で再び外部に放出できたとすると、あれれ、これはエバポレータ側の熱がラジエータ側に移動したことになりませんか?そうです。これがヒート「ポンプ」と呼ばれる所以なのです。エバポレータ側の熱はコンプレッサによって汲み上げられ、ラジエータ側に捨てられます。こうやってエアコンや冷蔵庫は冷えています。

 な お 実 際 に は

今の説明にさらに液化と蒸発のプロセスが加わって動作はより複雑なものになっています。状態方程式に従った温度変化に加えて液化と蒸発に伴う潜熱のやり取りが加わるのです。そして、実際の熱移動への寄与は潜熱によるもののほうがはるかに大きく、事実上潜熱のやり取り、つまり液化とガス化の繰り返しによって動作しているのが世の中で稼働しているヒートポンプの実態です。
この液化とガス化の繰り返しは非常に効率が高いのですが、エアコンや冷蔵庫が動作する温度域は人間の活動温度域とほぼ同じですので、この温度域で効率よく液化とガス化ができる物質を冷媒として使わなければなりません。これがすなわちフロンガスなのです。

今後ブログを書いていくにあたって基本的なところは押さえておいていただくと説明が省略できますので(笑)ほかのネット上の情報など見ておいていただくと嬉しいです。
専門メーカーの説明とかおすすめ。

みら太な日々の興味は電気、機械、化学の境界領域にあり、これまでも炭酸ガスレーザやらマグネトロンスパッタやらの境界領域に位置するものの自作を行ってきましたが、フロンガスを圧縮するコンプレッサが制御されているというヒートポンプとかまさにこの三者相乗りのおいしいところです。これは手を出さないわけにはいかないでしょ。
ということで、当面これで楽しませていただきたいと思っております。

例によって恐ろしく長い前置きを経て動作確認へ。
…普通に動きました。

コンプレッサが動き出した振動を経て、タンクに一滴の水が落ちた時点で確認OKとして、早速分解に入ります(笑
メルカリの出品者様もまさかこんなものに使われるとは思ってなかったと思います。
そしてさらにこの除湿器君こそ到着早々分解されるとはまさか思ってなかったでしょうねえ。
でも大丈夫です。ちゃんと生まれ変わってたくさんのお客さんに見てもらうという素敵な未来が待っているはずです。
みら太な日々はこのガス冷却ペルチェ方式霧箱で来年のMFT出展を目指したいと思います。

ということで、おとなしくばらばらになってもらいます。
ネジは見えていますので外すだけでどんどんばらせます。

横の化粧板外して、

裏側。巨大なシロッコファンになっていますね。
ラジエータ側の放熱はこのまま使わせてもらうかな。

正面側。エバポレータが見えます。その奥にはラジエータも見えています。

右横から。上のほうに太い銅管が二本入っていますが、右側がラジエータ配管、つまり圧縮側、左がエバポレータ側、つまり膨張側です。

タイラップで止められている細い銅管が上記したキャピラリです。

圧縮側から来た配管がキャピラリに接続される部分。

しばらく動作させると、右の配管は触れないほどに熱くなり、左側は結露で水浸しになります。動かし名が見ると実に面白いです。

これは製造時にガスを入れるために使われた配管の口。途中をつぶした上に、出口は丁寧に塞いであります。

電源とコンプレッサの電源部分。制御は上に乗ってます。どうせ外して使わないので興味はないです(笑

コンプレッサ用の進相コンデンサ。これがあるということはインバータ式ではないということでいいでしょう。まあ除湿器は常に全力運転でしょうからインバータ式というのは無いと思いますが。

吹き出し口のルーバーを動かすためのギアードステッピングモータかな。

こちらがコンプレッサ様。思ったより小さいです。

コンプレッサはばね式のクッションに乗っています。振動低減のためですね。
そのおかげで実に静かです。

ラジエータ(左)とエバポレータ(右)を反対側から。
エバポレータは動作中ずっと結露していますので表面が黒く酸化してしまっています。

ほぼ構造は把握しました。

ということで、次期プロジェクト「ガス冷却ペルチェ方式霧箱の作製」に着手いたします。

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