酸水素ガス発生装置のレストア その1 完全分解

修理、改造

 
皆様酸水素ガスというのをご存知でしょうか。
恥ずかしながら、わたくし酸水素ガス、および酸水素ガスバーナーを知ったのは現職場に転職した後、つい昨年の事です。ガラス細工スペースにガスバーナーなどと一緒に「サンウェルダー」なる名前の箱が置いてありました。
しばらくの間は「これは何?」とか思いつつも「ガスバーナーの一種でしょ」というくらいの関心しかありませんでした。が、ある日熱電対の先端を焼き溶かして玉にしたいとおもってプロパンガスバーナーを使おうとしていると、同僚が「それならこっちの方がいいですよ」とサンウェルダーの使い方を教えてくれたのです。

で、使ってみると….
サンウェルダーの針のように細いトーチの先端と、そこから吹き出すやはり針のように細く鋭い炎を見た瞬間に「これはなんか違うぞ」と野生の鋭い勘が声を上げました。そして作業してみると「これはすごいなんてもんじゃない」という実感に変わりました。
まず何といっても炎の温度が高い。電対の先っちょくらいならあっという間に溶かしてしまいます。そして炎が細いので撚りのすぐ下にある被覆にはほとんどダメージがありません。さらに炎にさらした撚り部に全く酸化の後が見られません。これは私が今までに経験した炎とは全く違います。
不思議に思ったことは使い方にもあります。バーナーなのにまず電源をコンセントに繋いでスイッチを入れろと。ガスの元栓を開ける必要はないぞと。そして、火をつける時こそ普通に種火から点火しますが、火を消すときにはバルブを絞って消してはダメで、トーチにつながっているチューブを折り曲げてガスを遮断して消せと。極めつけは、消える瞬間に「ピッ!」という独特の音までするじゃあないですか。
この経験からこのサンウェルダーに大きな興味を持ち、装置を詳しく調べ始めました。
すると不思議なことばかりです。まずガスボンベがありません。それでもほとんどメンテナンスフリーで使えるとのこと。さらに使うとしても燃料は水というじゃないですか。これはもう????であります。急いでサンウェルダーのwebページを見て原理を調べました。そしてすべてを理解し、ものすごくこの炎が欲しくなりました。
それが酸水素炎です。

酸水素炎は、シンプルには水を電気分解して酸素と水素を発生させ、それをそのままチューブを通してトーチまで持ってきて、発生させたそばから燃やして炎を作るというものです。電気分解で発生(分解)したガスをそのまま燃焼(化合)させるのですから、当然化学量論比が完全に合っています。理想的な配合でむらなく混合された状態でトーチに供給されますので文字通り完全燃焼します。燃焼にあたって環境から酸素の供給を受ける必要が無いのです。酸水素ガスの特徴のすべてはここに集約されていると言ってよいと思います。

環境から酸素の供給を受ける必要がないということは、一般のガスバーナーのように、
①トーチからガスが噴き出す
②燃焼可能な比率になるまで環境の酸素と互いに拡散によって混合する
③実際に燃焼する
というプロセスを取る必要がない、特に②が必要無くなります。
②が無いので、拡散によって酸素と混合するための空間が必要ありません。拡散のための時間も必要ありません。さらに、酸素と混合する際に不可避的に混ざりこんでくる窒素の影響もありません。窒素は燃焼には何の寄与もせず、しかも燃焼熱によって膨張して無駄に炎を拡散させます。
このような一般のガスによる燃焼過程に対し、酸水素ガスは細いノズルの先から吹き出したままの形で細い針のように炎を作り、その針のように小さな体積の中で高速に完全燃焼し、さらに窒素による無駄な膨張もないために炎の中心点の温度が恐ろしく高くなるのです。これはすごいことです。

一般のガスによる炎と酸水素炎の違いはジェットエンジンとロケットエンジンの違いにも似ています。ジェットエンジンは大気から燃焼のための酸素を取り入れる必要がありますが、ロケットエンジンは酸素、あるいは何らかの酸化剤を燃料として持っていますので宇宙空間でも燃焼を持続することができます。根本的に違うのです。

さらにさらに、サンウェルダーにはまだ特徴がありました。それは補助的に使われるメタノールです。メタノールは電気分解槽とは別の容器に入れられており、電気分解によって発生した酸水素混合ガスがバブリングされています。
最初はこれが何を意味しているのか分かりませんでした。が、いろいろ考えておそらくこうではないかと理解しました。
メタノールはCH3OHという組成で、このメタノール1分子が大気中で燃焼することによって水2分子と二酸化炭素1分子ができます。この時、メタノール1分子には酸素は1原子しか含まれておりませんので、完全燃焼するためには酸素が3原子足りません。この足りない酸素3原子を大気中の酸素から得て最終的に完全に燃焼するわけです。
このメタノールがバブリングによって酸水素ガスに混ざると、酸水素ガスが燃焼する際の高温によって直ちに分解されますが、周りには完全燃焼のために十分な量の酸素がない状態に置かれます。これは不完全燃焼、つまり酸素が不足した還元性の炎が生じることを意味しており、これが炎の中心部で高温にさらされた金属が酸化しなかった理由ではないかと思ったのです。

いやとにかく魅力的な炎です。中二心をくすぐりまくる特性を持っております。何とか手元に置きたいです。そのつもりでGoogle先生に質問してみますと、この酸水素炎を実際に作っている方もいらっしゃいます。さらに、深く言及はしませんが、歴史を遡るとトンデモ科学系の側面もあるようです。というか、それしか引っ掛かってこない(笑
ということで、酸水素炎というキーワードがずっと心に引っ掛かっている最近でありました。ちなみに酸水素発生機は国内製を購入するなら10万から20万円以上、中華の安いものでも5万くらい。ガス量が少ないものでようやく2万円台のものがちらほらというところです。買うにはなんとも高価なものなのです。

そんなある日….ふと見るとヤフオクに酸水素ガス発生機が出品されているじゃあないですか。ジャンクとは書いてないものの、動くのかどうかははっきりとしないレベルです。但し6,000円という破格です。モノは日本ジュラックス社の製品であり、実績は多いしっかりとした製品のようです。
ジャンクっぽいところは、まず出品者は使っておらず電源投入と圧力計が動くことを確認したのみということ。そしてトーチがありません。さらにキャスターが壊れており、写真で見る限りかなりさびて、塗装の剥げも目立つお疲れ状態です。
ということで、かなり賭けの要素が感じられましたが、これまでに収集した情報によって原理はほぼ完全に理解できており、構造がそれほど複雑ではないことが分かっていましたので不動品でもなんとか再生できる、最悪でもパーツは自作用に流用できるだろうという見通しがありました。ということで、一万円くらいまでは突っ張るつもりで入札しました。
最終的には競争入札者が一人だけ、しかも高値を更新したのは一度だけということで、無事6,500円という破格で落札することができました。ただし、送料が4,000円近くかかり、トータルでは1万円かかったことになった次第。これはなんとしても動かさないといけません。そんな気持ちで落札品の到着を待ちました。

さて、例によって超長い導入部を経てレストアの記録となります。
ここから先も超長いですが、最終的には完全動作を確認できましたので、この投稿がなにがしか皆様の参考になりましたら幸いです。
では行きます。

到着時の荷姿。PPバンド切った状態です。
一人ではとても持てません。嫁さんに手伝ってもらってようやく工房まで引きずってきました。ラベルには45kgとか書いてあります(笑

開梱。

開梱。

段ボールの前面をカッターナイフで切って横滑りでここまで移動させました。キャスターが一つは完全に割れ。残りもベアリングボールが飛び散っていてほとんど用を成してない状態です。
出品者によると「通電して電圧を上げると圧力計が動いた」とのことでしたので、電解液が入っている可能性があります。入っているとすればかなり強いアルカリなので気を付けておく必要があります。
ドレンからあふれた電解液抜こうとしましたが、バルブが微動だにしませんでした(笑

とりあえず状態確認していくかということで、床に置いたまま天板を開きます。
ねじ二本外せばぱっかり天板が開きます。右側の側板と蝶番でつながっていて、メンテナンス用に開けることを前提にしている設計です。

中はすごい状態です。ほこりというが泥というか、床上浸水に巻き込まれたんじゃないかという感じです。筐体の底には焼き物用の土が硬く乾燥したような付着物がべっとりとついています。これはなかなかに手ごわそうです。

まずは電解槽のチェックです。ここが肝ですからね。
モンキー(中大)位を持ってきて、電解槽の上部の六角蓋を外します。

蓋の内側。パッキンがついていますが、腐食でボロボロ、硬い粘土のような状態になってしまってます。

ピンセットでほじくっていくと、ボロボロと崩れつつも、

何とか外れました。

ひどい状態です。

これは捨てて新しいものに取り換える必要がありますね。
やっぱアルカリは怖いです。

パッキン外した蓋は安全弁になっています。中央のマイナスねじの頭は圧力によって奥に押し込まれ、内圧を開放する仕組みになっています。原子炉のベントと同じですね。

ということで、とりあえず一筋縄ではいかなそうなことはわかりました。このまま組んだ状態でどうこうやっても埒が明かない感じです。これは完全分解&フルレストア決定です。

そうとなったら準備です。まずサンポール(笑 
なんとなく野生の勘が(酸を準備せよ)とささやくのであります。

壊れたキャスターは当然全交換であります。

だってこんな状態なんですよ。

次に分解したものを並べるためのスペースを確保します。

分解前に各部の写真を残しておきます。

特にこの操作説明が記載されたシール。これが読めなくなったら大変であります。
筐体の状態から考えて塗装とそれに伴う前処理は不可避と思われますので、剥がれたり消えたりしそうなものはしっかりと保存です。

ではばらしていきます。分解自体は見えているねじを外すだけなので非常に簡単です。

上蓋外れました。表と裏、というか外側と内側の色が全然違います。途中で誰かが色塗り直したのかな。

問題の筐体底部分。かなり気合を入れて掃除してこのレベルです。ほんとに床上浸水したんじゃないかと思わせる状態です。

反対側。排気ファンがついていますが、

ひどい状態です。乾燥した泥のようなものがびっしりとこびりついています。

とりあえず側板ごと外して、

廃墟の床のような底部をざっと掃除します。

ファン外します。ねじ止めなので外すこと自体は簡単。

100Vの軸流ファンです。確か同じようなものがおもちゃ箱に入っていたはずです。これは交換前提で考えます。

背面板。ここはなぜかベージュ色(笑
ごっついナットと用途が分からないL材がねじ止めされています。

中を見ると…ああ、大容量のダイオードかSCRですね。

奥にももう一つ見えます。これの電極が背面板のごついナットだったんですね。

であれば、L板は本体が金属壁に触れたときに短絡を避けるための邪魔板であると推測できます。

いい感じに緑青が生えた無駄に太いこの配線は電解槽の上部につながっています。

そしてもう一本が電解槽の下部に向かっています。これらがそれぞれ陽極と陰極につながっているのでしょう。

電気周りの接続を目視で追っていきます。ここも全部ばらすので元に戻せるようにしておかなければなりません。

回路図(一次側だけ)を起こしてみると思いのほか簡単というか、そのまんまでした。
タップが0Vにつながっているのがちょいと気になりますが。

配線ばらしていきます。ワッシャの入れ方も記録しておきましょう。

ここまでやっておきながら、そうだと思って電源入れてみました。パイロットランプは点きます。電解槽への電圧印加はしていません。中の状態がわからないので恐ろしくてできません。

電気周りの分解を続けます。

ばらしていって二次側の様子もわかってきました。全体はこうなっています。
背面板に固定されていたぶっといパーツはダイオードでした。トランスの二次側はグランドがセンターにあって、全波整流的なことを二本のダイオードでやっています。

背面板は電線の代わりにもなっています。
ダイオードのカソードがつながる、というかねじ止めされた背面版はアルミ板で放熱も兼ねていると思われます。

電源ケーブル切断します。これは廃棄ですね。ひどい状態です。

ではダイオードを外します。
ダイオード外すのに工房で最大サイズのモンキーが登場(笑

大学院当時にバケツみたいなサイリスタを扱ったことがありますが、このクラスはそれ以来です。

70MA20とあります。

データシート調べてみると、

おいおい250Aかよ。電圧は低いんだろうけどなんか怖くなってきた。

この迫力。普通の人はこれが電子部品(いや電気部品か)とは思わないでしょう。

ということで背面板が外れました。

で、ここからが本題です。

とりあえず外せるところから外していきます。

中から見ると配管系も単純であることが分かります。

これはなんと呼べばいいパーツですかね。アルコールバブラーとでもしておきますか。

この筐体の外側に固定されている奴です。不思議とどのメーカーも似たようなデザインになってるんですよね。

中を覗いてみます。何やら入っている様子。

勇気を振り絞って(笑 出してみました。
これは何ですかね。アルコール臭はありませんから水かな。電解槽のアルカリが回っている可能性もあります。リトマス試験紙が無いので調べられません。
クエン酸の粒入れてみましたが、特になんということもなく溶けていきます。ということでそんな極端な液性ではないと判断して、水道水をジャンジャン流しながら希釈して捨てました。

問題はこの電解槽であります。とりあえずおろします。下ろさないと開けることもできません。

下ろしました。

過去一回は床上浸水してますよこれは(笑

それはさておき、ここからはアルカリを扱うのでゴム手を付けての作業です。

改めてキャップを外します。すると何やら入っています。

これはガラスの浮きですね。サンウェルダーの構造と全く同じです。また本体上部に貼りつけてあった操作説明とも会っております。
このガラスの浮きの頭がどのくらい飛び出しているかで液量を調べるようになっています。電解によって水は少しずつ消費されていきますので、この浮きを頼りに補充するわけです。

浮きを抜いて、割らないように安全なところに避難させました。

いよいよ中の液を取り出しますが、持ち上げる前に電解槽を裏からのぞくと……いやこれはひどい。
パッキンが入っているようですが、その周りは何かの塩なのか、はたまた劣化したゴムによる何かなのかもはやわかりませんがあんまり触りたくはない状態です。
アルカリが析出しているのであれば、直接触ると皮膚をやられます。

ナットの下には樹脂製のスペーサーが入っていますね。これでパッキン上側の電極(ダイオードの極性から陽極とします)と槽本体側(陰極)を電気的に分離するようです。

では意を決して重たい分解槽を持ち上げて中の液体を取り出します。
と….もうあんまり驚きませんが、というより想像通りですが、なんともすごい色の液体が流れだしてきました。真っ黒であります。

何の色でしょうね。電極がイオン化して溶けだしたか、ゴムが劣化して溶けたか、いずれにしてもひどい状態です。
これは槽を開けるのは後にしましょう。多分分解掃除は非常に大変な作業になります。

パネル側に戻って、電気周りの取り外しを再開します。

スライダック下ろします。このサイズなら容量は3-5Aといったところだと思われます。

かなり外れてきました。

バカでかいトランス。配線がハンダ付けではなくねじ止めという大電力の世界はある意味作業は楽です。ラチェットレンチとスパナで配線ができるとか(笑

トランス本体もボルトナット4本で固定されているだけなので簡単に外れます。

いよいよ最終段階です。

フロント周り。

スライダックの目盛り板までねじ止めです。

完全にばらせるのは気持ちが良いです。塗装の時も楽そう。

最後に機能がよくわからない部分を外します。

ここはおそらく単なる中継コネクタ。

で、これがよくわからないやつ。

サンウェルダーから想像するとガスのフィルターと思われます。

表示もそれを示唆しております。

最後は電圧計。

これで全部外れたかな。

ということで、

ようやく裏のキャスターに手を入れられます。

ここもなかなかにひどい状態。まあ全交換は決めていますから、とりあえず外しとけばよいのです。

しつこいですが、絶対床上浸水しています。

あと一つ。

キャスター全部外して、さらにそのベース板も外します。
これでシール以外は板金だけになりました。

外したもの。

外したものその2。

一日目はここで力尽きました。
ということで、投稿もここで一旦区切りたいと思います。

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