パイオニアのレーザディスクの民生品第一号が今回分解するLD-1000です。
レーザディスクはSD画質当時の映像/音声メディアでした。今はすでに絶えた製品です。詳細はWikipediaあたりをどうぞ。
みら太な日々ではこれまで何台かのレーザディスク再生機を分解してきました。例えばこことかこことか。これらの投稿は2013年ですから、もう7年も前の話ではありますが、この当時すでに「なぜならば古いタイプのレーザディスクにはHe-Neレーザが使われている事があり、うまく行くと格安でHe-Ne レーザが手にはいるかもしれないのです。」などと書いていますね。この当時から探していたHe-Neレーザ管を搭載したレーザディスク再生機こそが、今回分解したLD-1000であります。
先々週のハードオフツアーの際、ライフガーデン鳥栖店で見つけました。探し続ければいつかは巡り合うものなんですねえ。ジャンクの神に感謝であります。
しかも値段は1000円でした。曰く「ディスク再生できません」とのこと。ディスクが再生できない要因はあまたありますので、このコメントだけでは何がどうなっているのか全く分かりませんでしたが、こんな機会がまたあるとも思えないので速攻で購入した次第。
少なくとも本体を振ったときにはガチャガチャ音がしませんでしたので、レーザ管がわれてばらばらということだけは無いと確認。
では行きます。
こちらが全景。これでもかというくらい平面です。上に蓋が開いてディスクをアナログレコードみたいに入れる構造でありながら、上面に意匠の工夫が全くなし。無骨と言えんこともないですが、今のAV危機からは考えられないデザインであります。
フロントパネル。LEDは赤です。この当時はもちろん青色LEDはまだ市販されておりませんし、暗い緑がようやく出てきたころかな。
フロントパネルのイジェクトボタンを押すとソレノイドが動作する音がして上蓋のロックが外れます。これまたすっぴんとしか言いようがないデザインです。産業用機器みたいですね。
スピンドルとピックアップ。
で、この状態でスイッチをあちこち押しておりますと….なんとピックアップが赤く光っているではないですか。ここで100%の勝利を確信であります。He-Neレーザ管ゲット間違いなしであります。
心躍りながらも、一通りチェックして攻略方法を考えます。
出力部。簡単なもんです。TVとの接続はアンテナ端子ですよ。初代ファミコンみたいな接続と言ったらわかるかな。HDMIが登場するのは数十年後です。
14515台目か、4515台目でしょうね。
周りをぐるっと見てもネジらしいネジはありません。とりあえず見えるモノから外していきます。
まずは上蓋が外れます。
こっから先はちと考えました。LD入れるところにねじはたくさん見えますが、構造上このネジを外しても上部筐体が外れてくるとは思えません。右側のブロックのどこかに絶対ねじがあるはずです。それがないということは、この面から分解するのではないことを示しています。
ということで、こちらものっぺりとしている裏をチェック。ねじ穴ほとんどありません。足下にねじを隠すような小細工もされてないようです。
ひょっとしたら爪でひっかけかなと思いながら見えているねじを外すとあっさりうらぶたが取れてきました。4本かな、ほんの少しのネジだけでこのサイズの裏ブタが固定されていました。
いきなり何やらでかいトランス。重たいのはこれのせいですね。
高圧特有の見目をしたケーブルを発見。これがレーザの電源ですね。
こ奴がピックアップをドライブするステッピんグモータと思われます。
高圧ケーブルの引き回しから判断するに、レーザ管はこの中にあります。光学系ですので遮光されているのでしょう。
高圧ケーブルの根元にフライバックトランスを発見。間違いないです。ここがレーザ電源部です。
フライバックトランスは思ったよりも小さいですね。電流はあまり流さないのでしょう。
黒いプラスチックを外すには手前のきばんが邪魔です。ということで取り外そうとすると、こんな感じにヒンジで回転してメンテナンスができるようになっています。いやあ実に昔の製品という感じです。昔は修理というと回路図と首っ引きで抵抗一本からはんだごて片手に交換していたのです。 そしてこの基板の色。古い古い基板の色です。真空管テレビの回路基板はこんな色でした。懐かしいです。もう40年近く前の製品ですからねえ。
で、ようやく黒プラスチックを外すと、予想通り目的のブツが入っておりました。
これが今回の分解の最大の目的でありますHe-Neレーザ管であります。長さは200mmというろことかな。
光学系は見ただけで何したいのかわかるレイアウトです。
配線は何一つ外していないのでこの状態でレーザ管が点灯するはずです。
動かしてみます。動画で。
実に美しい赤です。私が一番好きな赤なのです。カメラで撮影した動画ではその良さが伝わらないのが残念です。
He-Neレーザの発振波長は630.8nmです。この赤というのはレーザポインタで見る赤よりも波長が短いです。レーザポインタ用の半導体レーザは大規模に量産されていたDVD用の658nmのものです。He-Neレーザの赤はこの658nmに比べるとすっきりと赤い、いわゆるピジョンブラッドと呼ばれる色に近い美しい赤です。
線香の煙流してみましたが、光路をうまく撮影することはできませんでした。
He-Neレーザはガスレーザの中でもコヒーレンスが高いことで知られています。コヒーレンスというのは、簡単に言うとレーザビームの行儀良さです。半導体レーザはコヒーレンスがレーザとしては異常に低いので、断面が丸くてまっすぐ一様な太さのビームを作るためにはアナモルフィックプリズムやらレンズやらの光学系が必須です。これに対してHe-Neレーザには何も必要ありません。レーザ光がレーザ管から出てきた時点ですでにまん丸&まっすぐなのです。これはガスレーザ一般に言えることでもあります。その意味ではCO2レーザもそれなりのコヒーレンスを持っております。が、こちらは光が目に見えませんのでいまいちであります。
美しい色である上に高いコヒーレンスという素晴らしい芸術品ともいえるレーザの女王がHe-Neレーザです。ということで、ずっとずっと手元に置いておきたかったのです。ようやくその夢がかないそうです。
ちなみに、みら太な日々的にはレーザの王様はArレーザですかね。あの美しい青というか青緑というか、とにかくうっとりとながめてしまう、誰もを虜にしてしまう美しさ。
話が逸れました。
さてこのレーザ、どれぐらいの出力なんでしょう。
LDの読み取りができればよいので、おそらく数mWだろうと思われます。光路に指を突っ込んで散乱された光を見る限りは、レーザポインタの光路を遮断した時の散乱の様子とあんまり変わりません。国内に流通するレーザポインタの出力は5mW以下ですので、おそらくHe-Neレーザもそうだと推測しましたが、そこからさらに低い可能性もあります。先ほども描きましたが、レーザポインタの発振波長は658nm、He-Neレーザは630.8nmです。この二つの波長では人間の目の視感度が結構えげつなく違います。ので、同じような明るさに見えても、He-Neレーザ波長の視感度が高いために、実際のエネルギーは数分の一ということも考えられるのです。
ということで、ちゃんと動いているうちに測定してみました。
製品内で駆動されている条件を調べておけば、あとで外部駆動回路を接続するときにどこまで電流流していいのかの判断材料になります。
レーザの出力は流す電流に従って増えていきますが、電流を流しすぎると発熱が増え、ガスの劣化を促進してしまいます。ましてやこのレーザ管は水冷では無く、空冷ですらないので過熱は命とりなのです。
光パワーメータ使います。この光パワーメータは神から賜りしものの一つです。
かなりマニアックなMakerさんがたくさんいらっしゃいますが、計測器としての光パワーメータをお持ちの方は少ないと思います。ありがたい話であります。
測定は簡単で、ゼロ点調整したプローブを光路に突っ込むだけであります。
もちろんおおよそのエネルギーにあたりをつけてからであります。CO2レーザの光路にプローブを突っ込むと一発で燃え溶けます多分。
で、計ってみると思いのほかありました。4.2mWです。まあ妥当な範囲かなと。
ちなみに、ミラーに一回反射させると、
ここまで落ちます。ミラーがかなり汚れているようです。
さらにさらに、1/4波長板やダイクロイックプリズムを通した後では、
ここまで落ちます。
この後トラッキングミラー二枚に反射されて、フォーカスレンズに入りますから、実際にレーザディスクの表面に到達しているレーザのエネルギーは1mWかそこらだと思われます。
ちなみにこれらの光学系は、なんと全部ピックアップに乗っています。
なにを言っているのかわからないと思いますが、私も最初にこれを見たときはびっくりしました。今のBDやDVDのピックアップはそれこそ一円玉よりも小さいですが、このLD-1000のピックアップは弁当箱くらいあります。今までさんざん写真をみていただいたあの光学系が全部ピックアップを構成しているのです。つまり、ディスクを読み取っていくにしたがってこれら弁当箱ピックアップが動いていくということです。
電源投入直後に行われる原点出し動作を動画で見てみましょう。
びっくりすると同時にこの機構を民生品として完成させたパイオニアの技術者たちに敬意を払わずにはいられないです。まだまだ世の中がアナログ中心だった頃で、SONYから日本初のCDが登場して世の中がデジタルへの移行を開始するのはLD-1000が発売された翌年のことです。歳がばれますが、私が高校生の頃です。全くすごいことです。
では先に進めます。必要な情報は得られましたのでレーザ管外します。
東芝製です。東芝がHe-Neレーザなんか作ってたんですね。最近はなんだかんだであんまり元気がない会社ですが、原子炉から半導体まで何でもありのえらく守備範囲の広い会社ですね。
レーザ周りの光学系から分解していきます。
トラッキング用の電磁駆動ミラーペア。何もかもでかい。
ピックアップ外します。
これ。まさに弁当箱サイズです。
1/4波長板かな。
ダイクロイックプリズム、というかビームスプリッタかな。なんとか外そうと頑張ったんですがUV接着剤でガチガチで外れませんでした。
これはおそらくパワー測定のためのPDか何かです。が、えらくピン数が多いです。
調べてみると、なんと情報が落ちてました。PINフォトダイオードです。
82年のカタログかな。出始めのLDの単価が1000個ロットで7000円とか。今の価格の1000倍くらいですかね。
ピックアップ上の光学パーツを外していきます。
これはグレーティングですね。
虹色になっているのが分かります。回折格子です。ビーム分割してるのかな。
微調可能なミラーマウント。
これはうれしいです。いろいろ使えます。
最後はフォーカスレンズ。電磁コイルで上下動できるようになっています。
ディスクの面内変形はフォーカスレンズの上下動で、そして偏心とトラッキングには上の二枚のミラーでそれぞれ対応するよう制御を行っていたものと思われます。
アルミダイキャストでそこそこ重いです。初期のHDDやフロッピーディスクの構造を思い出します。
残念ですが外れません。
光学系の分解が終わりましたらあとはさくさくです。どんどん基板を外していきます。
基本的に興味がある部品はありませんので適当にぶった切っていきます。
蓋のロックとロックを外すためのソレノイド機構部。蓋の開け閉めだけでこの仰々しさ。
レーザの電源を思われるところは一体で外しておきます。
制御線の動作が全く分かりませんのでおそらくこの基板でどうこうすることは無いと思いますが、念のためにです。
いよいよ最終段階です。まだスピンドルモータが外れませんが(笑
スピンドルは反対側から分解する構造でした。さすが心臓部だけあってしっかり作ってあります。パーツの多いこと。
ようやくすべての基板が外れました。分解終了です。
全体の機構的な中心はこの板金板です。1mm弱の厚みがあり、非常に重たくしっかりとしています。どこまでも昔の製品の作りです。
では分解後の跡片付けです。筐体をそのまま使って中に不要な基板や夥しい数の板金部品を放り込んで行くことにします。
まず上蓋を上部筐体にテープで固定します。
で、それをひっくり返すと都合よく箱状になりますので、
フレーム板金入れて、
と思ったら、フロントパネル分解するの忘れてました。
ネジ外していくだけなので簡単であります。
タクトスイッチが立派なこと。これだけは外して回収しておこうかな。
改めて分解が済んだフロントパネルを元の位置に戻して、
いらない分解パーツを放り込みます。
細かな板金部品がいくつあったか想像もつきません。50は間違いなくあったと思います。これらが全てねじ止めでフレーム板金に取り付けられていたのです。よくもこんなものを設計したなあと改めて関心です。
放り込むもの放り込んだら、底板嵌めて、
テープで止めて、
ラップでぐるぐる巻きにして完了です。
では成果物の確認です。
何といってもこのHe-Neレーザ管。ようやくようやく手に入れました。満足です。
その他光学部品とか。おそらく使わないけどつい取っておいてしまうものたち。
タクトスイッチが気になったので。
ものすごい数のネジ。
インクジェットプリンタなんかを分解するときと今回のLD-1000分解の大きな違いがタッピングと小ねじの数の比率です。
プリンタというか、最近の製品の機構的な構成は射出成型筐体が中心になってますので多くの後付けパーツはABSなんかのプラスチック筐体のボス穴にタッピングネジで止めるタイプが主流ですが、LD-1000は板金だらけなのでタッピングネジではなく小ねじが大部分です。フレーム板金の穴という穴にタップ加工が施されており、そこに板金部品がねじ止めされているのです。
下の写真では赤い皿が小ねじ、左の小さな皿がタッピングです。
ということで、長年の目標の一つであったHe-Neレーザ管を手に入れました。
いずれどこかで電源周りを作って点灯できるようにしましょう。
何に使うかを聞いてはいけません。
He-Neレーザは芸術品ですから、もちろん観賞用です(笑
コメント