MakerFaire2016に出展した霧箱は、水冷式でタンクは床置き、ホースが這いまわるというあんまりかっこいいものではなく、何とかもう少しすっきりしたものにしたいとずっと思っておりました。
復習のために出展した霧箱を引っ張り出してきます。こちら。左側が霧箱本体。黒い部分が冷却されるアルミ板のステージで、その直下に二段重ねのペルチェ素子が配置され、さらにその下に水冷ジャケットが取り付けられています。
こちらは温度コントローラーとLEDの調光をおこなう回路部分。Arduino nano クローンを使い、温度測定のために薄型のサーミスタ二個を冷却ステージおよび水冷ジャケットに取り付けています。温度は逐次LCDに表示されます。
冷却ステージ部分。奥に見えるのはLEDライトです。放射線の通貨によって発生する軌跡を見やすくするように下向きに光が出るようになっています。
LEDは結構強力に照らしますので、念のため放熱板をつけております。
水冷ジャケット部分を覗き込むと、白いシリコン接着剤で固められたペルチェ素子が見えます。
このように、霧箱本体は比較的小型にまとまっているのですが、ここからホースが二本伸びて、4Lの冷却水タンクにつながり、さらにそのタンクには氷が放り込まれているという構成でした。
このような大掛かりな作りではありましたが、水冷ペルチェ素子の効果は絶大で、マントルを使った線源から飛び出してくる非常に多くのアルファ線の飛跡を見ることができました。当時の実験動画を見てみましょう。
さて、すっきりしたものにしたいという思いはあるものの、これといった具体的なアイデアは浮かばないままで、とりあえず「タンク別置き、冷却水配管は無くしたい」と思って考えていたのみでした。しかし、アイデアが浮かばないまま放置するのも嫌なので、本日は再検討のとっかかりとして温度測定ユニットとペルチェ素子を一枚使った基本的な実験系を作ってみました。
最終目的は、簡単な準備でアルファ線の軌跡を観察できるように作り込むことです。霧箱をご覧になったことがある方は同意いただけると思いますが、放射線が作る軌跡は何とも幻想的で見ていて飽きることがありません。疲れたときにぼーっと眺めるオブジェとしては最適なものの一つだと思っております。自然の神秘であり、物理学の非常に基本的かつ不思議な現象である放射性崩壊を可視化する。いやあロマンがありますな。
ということで、作っていきます。
まずはペルチェ素子の部分から工作します。こちらの放熱板を使います。
そもそも今回霧箱の改造をしようと思ったきっかけがこの放熱板の手に入れたことです。
秋葉原の日米無線電機で400円で購入しました。
シンプルなアルミの放熱板で、四隅以外に穴加工が無く、ペルチェ素子をぴったり密着させるのに向いてそうだなと思ったのでした。
こんな感じで裏面はフラットです。一つ400円でした。予備含め二つ購入。
ペルチェ素子はMFTの準備の時に買ったものが沢山あります。
いずれも7A品だったと思います。
通電して表裏を調べます。リード線の色通りに通電した場合、品番刻印側が冷却面となることがわかりました。
MFTの時はCPUの放熱板を取り付けるときに用いるシリコングリスを使いましたが、今回はこの熱伝導両面テープを使います。Aitendoで一袋100円で購入。結構な値段ですが手を汚さずにペルチェ素子をしっかり固定できるのが魅力です。
貼っていきます。全面にぴったりと。
はみ出したところはカッターで切り落とします。
あとは裏紙を剥いで放熱板の中央にしっかりと張り付けるだけ。
非常にがっしりとついています。熱伝導性についてはよくわからんところがありますが、熱伝導テープとして売っているのですから一定の性能は期待してもいいでしょう。多分。
次に温度測定系を作ります。おもちゃ箱を除くと中途半端に遊んだArduinoのモジュールがいくつか出てきました。
今回はまだ実戦投入をしていないこの「あちゃんでいいの」を使ってみることにしました。実に謎な名前です。が、328Pを使った実にシンプルで今回の目的にぴったりな互換モジュールであります。
LCDはこれを使おうと思ったのですが、よく調べてみるとセグメント液晶でした(笑
Aitendoで98円くらいで買ったやつです。道理で安いはずだ。桁数が足りないので使えません。
いっそのことこのでっかい奴を使おうかとも思いましたが、
結局よくある16*2の1602互換のキャラクタ液晶を使うことに決定。
ピンヘッダハンダ付けしていきます。
あちゃんでいいのはひとまわり小さなブレッドボードに挿して、
このUSB-シリアル変換ボードを接続します。
あちゃんでいいのはArduino UNOやnanoにあるようなUSB-シリアル変換モジュールを積んでいませんので、変換は外部で行う必要があるのです。
この二つのモジュールの間はシリアル接続されます。
とりあえず基本のLチカを書いてみて、書き込みが正常に行われることを確認。
LCDとあちゃんでいいのを接続していきます。
基本はデータ線4本と制御線3本、そして電源です。
あちゃんでいいののピン配置を考えながら接続していきます。
ハンダ付けが終わったら熱収縮チューブできれいに仕上げます。この辺はこだわりたいところ。
ピンソケットとピンヘッダで繋いでおけば、このLCDを他のプロジェクトに流用することも可能になります。
全景。
まずは基本の豆腐を出します。豆腐が出れば第一段階突破です。
あとはデータ線が適切に繋がれていればLCDに表示が出ます。
ちなみに、スケッチはほぼこれだけです。超簡単。
LiquidCrystal lcd(3, 4, 5, 6, 7, 8);
void setup() {
// define LCD size
lcd.begin(16, 2);
// show message
lcd.print(“mirata.na.hibi”);
// move cursor
lcd.setCursor(4, 1);
// show second row
lcd.print(“arduino test”);
}
LCDの表示が出来たので、温度センサを作ります。MFTの時にはサーミスタを使いましたが、実験していた時にはこのような温度センサICを使っていました。
C1815そっくりの外観です。
この素子は秋月で買えます。今回もこれを使うことにしました。
いくつも種類がありますが、今回使ったのはMCP9700です。詳しくは秋月の商品紹介ページをご参照ください。
動作を確認します。01の方。
この時の室温は20℃くらいでしたので、かなりずれています。
温度計を使って補正します。温度センサICのいいところは、温度に対して出力がほぼリニアであるため計算式が簡単になるところです。
本当は氷点と室温とあと一つくらい校正点を作ってきちんと補正したほうが良いのですが、まあその辺は適当ということで、おそらく±3℃くらいはずれてると思われますが、まあいいでしょう。このまま進めます。
配線つないで、
ブレッドボードに挿せるようにピンをハンダ付けします。
ペルチェ素子の表面と放熱板の表面の温度を同時に見たいので、二つ作っておきます。
全景。
ほぼ室温。安定しています。
精度には一抹の不安もありますが、ひとまず温度測定も準備できました。
次は温度センサICの取り付けです。ペルチェ素子にしても放熱板にしても、センサICが表面にきっちりと密着していないとちゃんと温度が測れません。密着させるには接着剤で固めるのが一番簡単ですが、表面を汚したくないですし、特にペルチェ素子の冷却側は氷点下のかなり下の方まで冷えるのでエポキシなんかでは熱収縮によって外れてしまいます。
この辺りはMFT前の実験で嫌というほど体験しております。ということで、物理的に押し付ける方法をとります。
放熱板の四隅にはM3の穴が都合よく開いていますので、これをつかって固定を試みることに。
まずアクリルの端材から細長い板を切り出します。こんだけの作業にレーザ加工機動かすのもなんですので、久々にアクリルカッターを使いました。
位置を合わせて穴開けます。
長すぎる部分はアクリルカッター使うほどでもないので(笑
こちらのアルティメットカッターを使います。
紙でも切るみたいに一撃で切断できます。
これで部材はできました。ねじの適当なの選んで、
こんな感じにペルチェ素子の表面に温度センサICを押し付け固定します。
がっちり押し付けられており、いい感じです。透明アクリルで作りましたのでペルチェ素子の表面がよく見えますし、熱伝導性も低いのでペルチェ素子の表面温度にも影響を与えないでしょう。
放熱板側も同じように押さえるようにしましょう。
こんな感じの片押さえにしてみました。
それなりに泊まっているみたいですので、まあいいかなと。
これでセットアップ完了です。
全景。
ペルチェ素子部分。
まずはこのままで通電してどの程度冷えるか見てみます。
ペルチェ素子は7Aまで流せるのですが、手持ちの安定化電源は3A品です。まずは控えめに。
ぐんぐん下がって行きます。上段がペルチェ素子の冷却面です。
1℃台まで下がったところで止まりました。こんなもんかな。
もう少し電流増やしてみます。
もう少しで氷点下ですが、あと一歩で氷点を切りません。
2Aまで電流を増やすと、
ようやく氷点下に落ちました。
ペルチェ素子の表面はまだ濡れています。実際には0度になってない模様。もうすこし精度上げないといけないかな。
最後に電源の全力を投入してみます。
すると、もう一歩は冷えますが、
たちまち排熱の方が間に合わなくなり、放熱板の表面温度がぐんぐん上がります。そしてそれにつられてペルチェ素子の冷却面温度も上がってしまいます。
これでは逆効果です。この辺り以上の電流を流して冷却を行うためには放熱板側の熱を逃がす必要があるということです。
おおよその実力は分りました。
今後はこの放熱板をどうやって冷やすかでいくつかの実験をしてみます。
空冷でうまく冷やせれば言うことないですが、直感的にはもっと積極的な冷却が必要なイメージです。やはり水冷でしょうかね。水冷にしてもMFTモデルのような分離型はやりたくありません。放熱板を水に直漬けで行きたいと考えています。
あるいは、寒い日の屋外で動かせば案外空冷でも行けるかもしれません。
やはり実際に手を動かすといろいろアイデアが浮かんできます。やっぱモノは作ってなんぼですね。楽しくなってきました。しばらく遊べそうです。
コメント
どうでしょう34℃だったらCPUファン程度で間に合いませんか?
まだガンガン温度上がっちゃうんでしょうか。
ぼおんさん、放置すいません。
放熱だけ考えればファンでもOKなんですが、ペルチェが作り出せるのは高温側と低温側の温度差だけなのが問題です。
高温側をファンにして最大効率の放熱を確保できたとしても持っていけるのは室温までですので、そこからの温度差以上の低温は期待できません。例えばある電流で温度差が40℃確保できるとすると、室温25℃の時に到達できる低温側は-15℃までとなります。
もちろん、ペルチェを二段重ねにするとさらに下がりますが、排熱も大きくなり、放熱板もファンも大きくなり…といった方向に向かいます。そしてその時の投入エネルギーや装置規模といった投資に対する温度低下の効果は非常に悪いです。
ということで「高温側をいかに低温にするか」が目下の関心事項となっております。高温側を0℃まで冷やせれば、上記条件と同じ温度差40度の時に低温側は-40℃まで下がることになります。この程度までは下げたいのです。
長いこと拝見していませんでしたが、大変進歩していますね。
観察面積をエクステンドした上で-40℃台は凄いと思います。
技術的には空冷でも-50℃程度まで到達可能ですよ。
二段重ねにした上で、上段側の印加電圧を下げてやります。
また大分前からヒートパイプには方向性が無くなっています。
今時のCPUファンを使えば極めてコンパクトで静音の物が作れますよ。
こちらのウェブサイト http://bigbird.riast.osakafu-u.ac.jp/~akiyoshi/Works/CloudChamber.htm
で製作方法をまとめた論文など公開しております。
ご参考まで。
ようやく過去の記事を読み終わりましたが、下段12V, 上段5Vはすでにやっておられたのですね。4cm角の12708を2枚か、より高性能を目指すのであれば下段12708 + 上段12705 の組み合わせで、それほど頑張らなくても-30℃までは簡単に到達できると思いますが・・・
こちらでは熱伝導グリスとしてMX-4にたどり着いていますが、短期間の使用であればもっと熱伝導率の高い製品もあります。わずかな熱抵抗で到達温度が大きく異なりますから、そのあたり検討されてみると良いかと思います。
そちらの記事を見ているとレーザーカッターに非常に興味が出てきました。こちらでは超音波カッターで加工しており加工精度に限界がありますので・・・