放電実験

自作レーザ加工機

 
電源とレーザ管(仮)ができましたので、放電実験を行います。

まずは管内の減圧です。
6mmΦのプラスチックチューブと流量調整バルブ、ON/OFFバルブを使って、

片側を真空引きの速度調整に、

もう片側はとりあえず嵌め殺しにして、

 こんな感じのものを作ります。
 高圧電源の出力はフランジ部分をワニ口クリップで挟んでレーザ管(仮)の内部に電位差が生じるようにします。真空引きしない状態では当然ギャップが広すぎ(25cmくらい)ですのでまったく放電は起きません。

ここで新規導入した真空ポンプ登場。
こんなの買ってたら中国製レーザ管の完成品を買ったほうが安くなりそうな気もしますが、真空ポンプは汎用機器なので別会計ということで (^_^.)

レーザ管(仮)の両端はフランジをつけただけで開放状態ですので、シリコンゴムの小片で押さえて管内を真空引きします。管内の体積は小さなものですので、あっという間に真空引きが飽和します。音を聞いていると良くわかるのです。この辺はこれまでの経験でなんとか。
いよいよ通電です。さて、うまくいきますか……

おお!カコイイ! すばらしい。
一発で成功です。なんか拍子抜けしました。
現状は大気(窒素~80%、酸素~20%、etc)からの減圧ですので、発光しているのはほとんど窒素です。窒素は紫外域~紫と赤~赤外に発光を持ちますのでこんな色です。

CO2レーザではCO2ガスと共にこの窒素が重要な働きをします。CO2レーザはCO2だけではなく、窒素やヘリウムといった複数のガスの共存によって高い効率で発振するのです。
CO2を励起(CO2レーザの発振波長である約10umというのは電子遷移ではなく振動準位間の遷移です)するには、まず高電圧放電によって窒素を励起します。励起された窒素のエネルギーの一部はCO2分子に移動してCO2分子を高い準位に押し上げます。窒素によって励起されるCO2の準位は下位の準位に比較して寿命が非常に長い(~1msec)ので簡単に反転分布を起こして誘導放出の準備ができるというわけです。このときフライバックトランスから印加される電圧はパルス状ですが、数十kHzと比較的高い周波数で、CO2の励起準位の寿命に比較すると十分に速い周期のため、レーザ出力はほとんど連続(CW発振)になると思われます。

せっかく真空ポンプがありますので、少し遊んでみました。
真空を破ったり、再び引いたりしています。音が大きくなっているときが管内の圧力が高いときです。真空度が上がるにつれて真空ポンプは静かになります。

こんなポンプでも引いていくと陰極側にファラデー暗部が生じるのを確認することができます。すごいです。教科書で読んですでに知っていることではありますが、その現象が自分の机の上で起きているのは感動的です。

ということで、放電実験は大成功でした。第一関門を突破というところです。

もちろん、今後のほうが圧倒的に難易度が高いです。
列挙しますと

  • 光共振器構造
    10um域で高い反射率を持つミラーを作る必要があります。場合によっては一定の曲率もった凹面にする必要があるかもしれません。そしてそれが高精度に対向するよう調整しなければならないのです。
    もちろんシグマ光機で売っているような光学機器用の調整機構を使えば比較的簡単かつ安定して行うことができるのですが、ステージひとつで何万もしますので個人用としてはまったく現実的ではありません。工夫のしどころです。
  • 光取り出し窓
    10umに対して高い透過率を持った材料が必要です。レーザ管の管径と長さによっては端面をハーフミラーにする必要があるかもしれません。一般的に使用される窓材はZnSeやGe、Siといったところですが、どれも簡単に手に入るものではありません。NaClの結晶を作って端面に銅を蒸着する、といったことも考えられますが、そのためには蒸着器(抵抗加熱かスパッタか)を作る必要が出てくるでしょう。最後はebayとかでずばりのパーツを買わざるを得ないかもしれないなと思っております。
  • 出力の評価
    当たり前ですが、10umはまったく見えません。
    CCDはある程度長波長側まで感度がありますので、デジタルカメラを使って赤外光を撮影している例がありますが、10umではそれも通用しません。
    ではどうやって出力の確認をするのか、調整をするのか、まったくめどがたっておりません。
  • ガスの組成と混合、導入
    ある程度の構想はしておりますが、うまくいくかどうかはまったくわかりません。幸い比較的安価に実験用の純ガスを入手することができますので、まずはそのあたりに頼ってみたいと思っております。難しいと思いますが、知恵と工夫で乗り切りたいなあ。
    最終的には大気とサーティーワン(アイスクリームのです)のドライアイスで発振させてみたいなと (^_^.)
  • その他
    電源の安定度、電圧電流は足りるのか、制御をどうするのか、レーザ管の放熱はどうするのか、真空度を維持する構造はどうするか。

…..課題山積みですね。ほんとにできるのかな。

難題ばかりではありますが、希望もあります。世界には自宅のガレージでCO2をはじめとするレーザを発振させている基地外すばらしい先輩がたくさんいるのです。先達の苦労はWebに集積されており、その聖地がここだと思います。
Home-Built Carbon Dioxide (CO2) Laser などという物騒な頼もしい項目があり、現在鋭意勉強中であります。これを読んでいると何とかなるかもしれないという希望が湧いて来ます。
CO2レーザの発振、加工機への組み込みと道程は先が見えないほどですが、気長にやっていこうと思います。
ご期待ください。

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