ガス冷却ペルチェ方式霧箱 その33 ガス再充填

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冷えることが確認できたガス枕ですが、そこまでで手持ちのガスがなくなってしまってました。ということで、急遽買い増しを行いました。HFC-134aは写真のほかに3缶あります。こんだけあれば大丈夫。

ということで、ガスを入れ増ししようと配管を触っておりましたら折りました(笑
ガス全部抜けました。
このサービスバルブの銅管はもともと肉薄で怖かったんですが、フレア加工のつばの根元からポッキリ逝きました。
まあ、折れたものはまたフレア加工して接続し直せばいいだけなんですが、残念なことに長さが足りません。この写真では十分に銅管の長さがあるように見えますが、ここにフレアナット入れて、さらにフレアツールで噛みつくためのよぶんが必要なので、実際には40mmくらいの銅管部分がないと加工ができないのです。
さて困りました。このほかにサービスバルブを持っておりません。

しかたがないので延長することにしました。6mmφ管をスリーブにして5mm管を付け足します。

まずはスリーブと延長管を接続します。
ここまでの実験でロウ付け使わなくてもハンダ付けで十分であることが分かりましたので、今回も鉛フリーハンダで接続します。

出来上がり。我ながらかなりうまくなってきました。

続いてサービスバルブ。

もちろんこの虫ゴムというか、バルブコアは抜いておきます。

このトーチを使用。

きれいに接続できました。内部の酸化膜を塩酸で洗い流しておきます。

今度は十分な長さがあるのでフレア加工も楽です。延長した管は肉厚もあるので強度も上がってさらに良し。

ガス枕出口の低圧側にチーズを使って接続します。

こんな感じ。

サービスバルブが折れたときに配管が大気開放されてしまったので、もう一度真空引きからやり直しです。
今回の追加工で高圧側、低圧側双方にサービスバルブがつきましたので、高圧側から真空引きし、低圧側からガス入れることにします。

低圧側を接続。まだガスボンベには穴開けません。

真空引きとは別系統なのでシンプルな配管です。

真空引き側。

しばらくコンプレッサ回してオイルが配管全体に分散しているのであんまり吸い出しはないと思われますが、念のためにオイルトラップをつけておきます。

ガス入れは例によって手が離せないので写真はありません。
前回との違いは、低圧側からの充填なのでボンベをひっくり返さずに、ガス状態のまま入れたことです。コンプレッサを回せば配管が減圧されますので何もしなくてもガスが入っていきます。
ガスが入っていっているのは、ボンベを持って振ってみるのが一つの確認法ですが、接続されているホースが硬いのでボンベ重量の変化は実はよくわかりません。その代わりにボンベの温度がよくわかります。ガスが入っていっているときにはボンベ内の液化ガスがどんどん気化して吸い込まれていきますので、気化熱が奪われてボンベの温度が下がっていきます。ほっておくと霜がつくくらいに冷えます。これで十分に確認可能です。
入りが悪いと思われる場合は、ボンベをお湯につけてやれば圧が上がってより入りやすくなります。

今回はボンベに余裕があることもあってまるまる2缶、400gのガスを充填しました。
元々の除湿器には確か200gより少し少ないガスが入っていたと記憶しています。除湿器からは配管系が大きく変わり、元ついていたエバポレータの代わりにガス枕がついています。配管容積はあんまり変わってないと思っていますので、除湿器としての特性を復活させるのであればボンベ一本分のガスで十分と思われますが、今回は意図あって二本分突っ込みました。このあたりは後ほどこの投稿の下の方で説明します。

ガス充填が終わったら早速試運転です。
冷却ファンとダクトもできていますので、ラジエターを冷やしながらの連続運転が可能なはずです。ラジエターをきちんと冷やすためには冷却ユニットにラジエター以外の開口が無いことが必要です。ということで冷却ユニット部分に側板をつけていきます。

フレキシブルダクト接続します。
ガス枕は冷却によって結露まみれになるはずですので、断熱材と枠をつけておきます。

そして、上部開口をMDF板と厚紙で仮に塞ぎます。

後ろから。

これでファンが排気する空気はほとんどこのラジエターを通過することになり、ラジエターの冷却が期待できます。

では運転開始です。ファンを回したのちにコンプレッサーの電源を入れます。
熱電対をガス枕表面に接触させ、発泡ポリエチレンで押さえつけて温度を測定します。
コンプレッサーの運転開始直後からガス枕の温度はどんどん下がって、1分ほどで-3℃に到達しました。よく冷えております。

ところが、この後いくら時間をかけてもこれ以上温度が低下しません。
が、これはもとより予想していたことであり、実験は思惑通りの経過をたどっているのです。
ここで、今の配管内にはやや過剰と思われるボンベ二本分、400gのガスが封入されていることを思い出してください。
以前図書館で借りた本で学んだ冷却サイクルの考え方によると、ガスの量というかガスの圧力と、ガス枕の到達最低温度と、輸送できる熱量の間には関数関係があり、物理現象や技術開発ではよくある話ですが、いいとこどりはできないようになっています。
いいとこどりとは「大量の熱をヒートポンプで移動させる」「到達最低温度を下げる」の両立です。荒っぽくは、移動できる熱の量と熱の移動による温度変化の絶対値の積が定数であると言い換えることができるということです。
これはガス冷却ペルチェ方式霧箱で言えば「ペルチェ素子のホット側から多くの熱を奪おうとするならホット側はあんまり温度は下がらんよ」ということです。
ペルチェ素子に電流を思いっきり流すと、ホット側から放出される熱量は莫大なものになりますので、それをちゃんと冷やす、つまり大量の熱をヒートポンプが持ち去るような条件ではホット側があまり冷えないという、考えてみると当たり前のことが起きます。

もう少し物理を細かく追ってみますと、
配管内のガス圧が低いほどガスは蒸発しやすくなりますので、より低温でも蒸発する、つまり低温側は良く冷えるということになります。一方でガス圧が低いということは熱の運び手であるガスの絶対量が少ないということですから、低圧のガスが運べる熱量は限りがあります。そこで運べる熱量が増えるように配管内のガスの量を増やすと配管内の圧力が上がりますので、ガスはより蒸発しにくくなり、蒸発温度が上昇する、つまり低温側の温度はそれほど下がらないということになります。で、たくさんの熱量を運びつつ冷却側の到達温度を下げようとすると、冷却系の規模が大きくなりコンプレッサも大型化するという流れになります。全く自然はよくできています。

現時点ではガス枕の上にペルチェ素子を4枚乗せ、MFTに出展した時の霧箱に比べて観察部分の面積を4倍に大きくする計画です。そしてその状態で霧箱内を少なくとも-30℃程度までは冷やしたいと思っております。-30℃まで冷却すれば放射線の軌跡がきれいに観察できることは確認済みです。が、この条件を実現した時ペルチェ素子からどの程度の熱が出て、どのくらいまでガス枕が冷えるかは実験してみないとわからないのです。
もちろん、物理は明らかになっていますのでプロは計算を基に設計を行うわけですが、私にはそんな知識も経験もありませんので、実験で確認をしていくしかありません。
ということで、最初は過剰と思われる量のガスを突っ込んでおいて、つまり輸送できる熱量をできるだけ大きくしておいて実験し、ガスを抜きながら最適点を探っていくということをやろうと考えているのです。

さて、今の冷却系ではガスが過剰であるということは目視でも確認できます。
それはガス枕出口の配管です。現状では下の写真のように出口側、つまり低圧側の配管の外壁にびっしりと霜がついています。これはもちろんこの部分が氷点下であることを示しています。この部分が氷点下であるということは、ガス枕を通り越したこの部分もなお冷えているということです。
本来低圧側というのはガスが気化した状態、つまりガス枕(エバポレータに相当)ですべての液化ガスは気化して気化熱を奪った状態が効率最大になります。ところが、写真のように低圧側の配管がなお冷やされているということは、ガス枕内でガスが気化しきれなかったということであり、冷やさなくてもいいところを冷やしているということです。
これはすなわち「ガス枕単体で動いていてペルチェ素子が乗っていない今の状態では」ガスが過剰であることを示しています。
霧箱動作時にはガス枕にペルチェ素子が並び、そこからは大量の熱が放出されます。そうするとガス枕の温度は上昇し、液化したガスはより蒸発しやすくなります。この状態ですべてのガスが気化し、したがって低圧側の冷却が行われず、結果として配管に霜がつかない、という状態が最大効率となります。
ペルチェ素子を全力動作させた状態でも低圧側配管に霜がつくようであればまだガスが多すぎるということですから、冷却系からガスを抜いていって最適点を探していきます。ガスを抜くことでガス枕の到達最低温度は下がっていきますので、ペルチェ素子の冷却側の温度もより低下し、ペルチェ素子を含めた冷却系の冷却効率が最大化します。そこがゴールです。

さて、熱電対で計ってるんですから大丈夫のはずですが、ほんとにガス枕が氷点下まで冷えているのかを水を乗せてみて確認します。

はい。ちゃんと凍っていきます。

ほどなく完全に凍りました。大丈夫です。

熱電対を二か所にしてみます。

ガス枕の入り口近くと出口近くの温度を測定しています。いずれも同じくらい。
上記したので改めて書きませんが、予想通りの結果です。

さてさて、ここまで進んだらペルチェ素子乗せて味見してみたいですよね、ね?

ということで一枚だけですが乗せてみました。

電源持ってきます。

使っているペルチェ素子はよくあるTEC1-12706です。定格は6Aですが、電流増やしても特性は頭打ちしますので控え目にこの辺の電流を流します。

通電直後からどんどん下がります。数秒で-20℃を下回ります。

さらにどんどん下がって、

あっさり-30℃を切りました。

動画でどうぞ。

いやこれは素晴らしいです。こんなにもあっさり目標を達成するとは。

 ペルチェ素子を4枚にすると発生する熱量も4倍ですからこのままうまく行くと楽観しない方が良いですが、この状態でもはっきりと軌跡が見える霧箱を作ることが可能です。
しかもこの温度がべったり安定しています。いや素晴らしい。

これは非常によい霧箱が作れそうな予感がしてきました。引き続き頑張りたいと思います。

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